Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

横山 秀夫 『クライマーズ・ハイ』

 
ふだんはあまり小説は読まないのですが、まわりの人たち(友達とか)の評判があまりにも良かったので、ついつい買ってしまいました。横山さんの小説は概して評判が良いらしいですが、そのなかでもこの本は傑作との由。

 舞台は架空の地方新聞社、北関東新聞の編集局。主人公である遊軍記者・悠木が、1985年8月12日、御巣鷹山日航機墜落事故が起こった直後、事故の全権デスクを任命されるところからストーリーが始まる。暗い過去を背負い事故を境に人生の岐路に立たされる主人公、事故と同じ日に歓楽街で謎の死を遂げた登山仲間、凄惨な現場に遭遇し豹変する若手記者、社内の権力争いから現場の動きを封じようとする上層部、それに憤る編集局の警察キャップ。世界史上最大の犠牲者数を出したこの航空機事故を通じて、登場人物の思いや生き様が怒涛のように交錯します。

 おそらく本書のテーマは、日本が抱えるジャーナリズムの病巣。後半の主人公・悠木の叫び「俺は『新聞』を作りたいんだ。『新聞紙』を作るのはもう真っ平だ」というせりふに、元新聞記者である横山さんの一番のメッセージがあると思います。事故原因報道の一番の対象は、一般読者か、事故の遺族か。命の大きさ、重さをいかに扱うか。事故の犠牲者は他の事件事故の犠牲者とどのように違うのか。日航機事故全権デスクである主人公は、事故後の1週間で、さまざまな「重い」選択を迫られることになります。

 終幕は、15年後の谷川・衝立岩。悠木は、事故の呪縛からようやく解放されます。

 父親が新聞記者で、大学時代ワンダーフォーゲル部だった自分にとっては大ヒット。印象に残るフレーズが幾つもある、久々に爽快な小説でした。万人に、とくにマスメディアに身を置く方々にとっては「マスト」でお勧めできる本です。
                                  (2006年発行、文春文庫)