Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

逢坂 冬馬 『同志少女よ、敵を撃て』

 第二次大戦中の独ソ戦を舞台に、家族を奪われ復讐心に燃える女性狙撃兵セラフィマの成長と葛藤を描く。

 

 ドイツ兵に家族と古郷を奪われたセラフィマは、狙撃手の過酷な訓練に耐え、戦場で仲間の死を乗り越えながら戦果を重ねる。ソ連軍もドイツ軍と同じように戦争犯罪を重ねていることを知り、女性を守るために戦うという動機を見出す。終盤、仇敵との決戦の中、師イリーナがおなじ志を持っていたことを知る。戦後、「愛する人」と「生きがい」の両方を見出し、再建した故郷の村で、実在するノンフィクション『戦争は女の顔をしていない』の著者の取材に応じようとするところで物語は終わる。

 

 平易な文章ながら、冒険やミステリーの要素も交えつつ、登場人物を魅力的に浮き立たせることに成功している。読後も、彼らの物語をもっと読んでいたい気にさせられる。命が淡々と奪われる苛酷な戦場と、そこで活躍した主人公がその先に見たものを対比することで、戦争の無為さを浮かび上がらせることに成功している。(著者も、別のインタビューの中で、この小説は反戦小説であると語っている。)豊富な資料の裏付けのもと、独ソ戦や当時の時代背景のディテールも細かい。

 

早川書房、2021年)