Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

堤 未果 『ルポ 貧困大国アメリカ』

 
 久々に密度の濃い新書。定価700円以上の価値があると思います。

 80年代のレーガン政権以降、特に9.11以降にアメリカが転げ落ちた格差社会の実像が、著者の念密な取材やインタビュー結果にもとづいて、ビビッドに描き出されています。
 医療保険や高等教育への奨学金、自然災害予防までもが次々に縮小あるいは民営化の対象となるなか、ひとびとの生活はどう没落していったか。「人災」ニューオーリンズ市の事例や、理不尽な民間医療保険が家計を破壊する様子が、具体的な筆致で綴られています。
 とりわけ印象的だったのが、イラク戦争・軍事部門民営化に関連する後半の章。実際、イラク戦争の現場で兵站業務に従事する「派遣」職員のうち大多数が、国内外で生活費のやりくりに窮して職業の選択肢を奪われた結果、契約書にサインしていることは、既に多くのメディアで明らかにされているところ。

 「もはや徴兵制など必要ないのです・・・政府は格差を拡大する政策を次々に打ち出すだけでいいのです。経済的に追い詰められた国民は、黙っていてもイデオロギーのためではなく生活苦から戦争に行ってくれますから」(米国のNGO職員の発言、本書177ページより引用)

 平たく言えば、この国の指導者と一部の資本家は、「民営化」「自由競争」の流れのもと、ヒスパニックやアフリカ系黒人の移民をはじめとする中間層以下の家計から所得をむしりとり、彼らの生活を破壊して国内の経済格差を加速させただけでなく、国外での戦争を延命・拡散させる「システム」を既に作り出している、ということ。アメリカはここまでおかしくなったか、と暗澹とした気分にさせられます。

 堤さんは日本の現状との類似性についても触れています。医療・年金制度の崩壊、非正社員雇用の増加、経済所得格差の拡大、そして改憲論議の加速。日本の指導者が、本当に単なる「日本のアメリカ化」を目指しているのであれば、行き着く先は、この本で明らかにされている情景そのものでしょう。

                                 (2008年1月発行、岩波書店