東野 圭吾 『容疑者Xの献身』
②印象に残ったパート
石神が思いを寄せるアパートの隣人・花岡は、一緒に住む娘とともに、つきまとう元夫をはずみで殺してしまう。警察の追及を逃れるため、石神が考え出したトリックは想像を絶するものだった。湯川は、石神への友情から、熟慮の末、真相についての推理を花岡に話す。「彼はあなた方を守るために、大きな犠牲を払ったのです。僕やあなたのような普通の人間には想像もできない、とてつもない犠牲です。」
トリックの真相と石神の思いを知った花岡の心は揺れる。「これほど深い愛情に、これまで出会ったことがなかった。いやそもそも、この世に存在することさえ知らなかった。」
石神の花岡への思いを知りながら真相を語った湯川の胸中にあるものは、人として絶対に譲ってはいけない一線、彼自身の正義だった。トリックに「使われた」ホームレスのことを想定しながら:「この世に無駄な歯車なんてないし、その使い道を決められるのは歯車自身だ」
石神が思いを寄せるアパートの隣人・花岡は、一緒に住む娘とともに、つきまとう元夫をはずみで殺してしまう。警察の追及を逃れるため、石神が考え出したトリックは想像を絶するものだった。湯川は、石神への友情から、熟慮の末、真相についての推理を花岡に話す。「彼はあなた方を守るために、大きな犠牲を払ったのです。僕やあなたのような普通の人間には想像もできない、とてつもない犠牲です。」
トリックの真相と石神の思いを知った花岡の心は揺れる。「これほど深い愛情に、これまで出会ったことがなかった。いやそもそも、この世に存在することさえ知らなかった。」
石神の花岡への思いを知りながら真相を語った湯川の胸中にあるものは、人として絶対に譲ってはいけない一線、彼自身の正義だった。トリックに「使われた」ホームレスのことを想定しながら:「この世に無駄な歯車なんてないし、その使い道を決められるのは歯車自身だ」
③読後の感想
最後の40ページで明らかになるトリックの真相と、石神の「動機」には、思わず鳥肌が立った。全ての伏線が回収され、終幕の石神の慟哭に結びついていくさまは見事。一級のミステリー小説としても、大人の純愛小説としても読める。石神が踏み外した最後の一線は絶対に許されないものだけれども、一人の人間を一途に愛し抜くということはどういうことなのか、ありうる一つのかたちを見せてくれる。冷徹な論理的思考力と純粋な動機を持った天才数学者・石神の人物描写も見事。
最後の40ページで明らかになるトリックの真相と、石神の「動機」には、思わず鳥肌が立った。全ての伏線が回収され、終幕の石神の慟哭に結びついていくさまは見事。一級のミステリー小説としても、大人の純愛小説としても読める。石神が踏み外した最後の一線は絶対に許されないものだけれども、一人の人間を一途に愛し抜くということはどういうことなのか、ありうる一つのかたちを見せてくれる。冷徹な論理的思考力と純粋な動機を持った天才数学者・石神の人物描写も見事。
(文春文庫、2008年発行)