Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

西川 潤 『人間のための経済学』

①本の紹介
 従属理論で知られる開発経済学者・西川氏が1990年代の開発経済学の変遷について論じた論文を12本集めた。

②印象に残ったパート
 第3章、従来の近代化論と内発的発展論の対抗関係を4点にまとめる。「(1)近代化論の根本に経済成長論という経済一元論があるのに対して、内発的発展論は、じつは経済社会の変化については文化や社会の役割が大きいと考え、変化推進の多様な要因を重視している。(2)したがって、近代化論は世界的な妥当性を主張する普遍論であるのに対し、後者は地域をベースにした多系的な発展論である。(3)前者が変化の外発性を強調するのに対して、後者は内発性の側面に関心を向ける。(4)前者がシステム的変化を重視するのに対して、後者は個人や社会集団が社会変化に占めるイニシアティブに目を向ける」
 終章、1990年代の開発経済学の潮流の変化を評して、「こうしてマクロ経済学のレベルで、主流派経済学の資本蓄積(経済成長)、経済均衡論が唯一の経済学ではありえないという常識が確立して初めて、ここから生まれる認識空間の枠内で、豊かさ・貧しさに関するパラダイム転換を伴う一連の理論―内発的発展論、社会的経済学、人間開発/発展論―が展開することになりえる。」「このパラダイム転換については、すでに現代世界の持つ人間(人権)抑圧構造、貧困創出構造を見据え、そこからの脱出、貧困解消、豊かさの創出をめざしてきた思想的流れがある。本書ではこれをガンジーマザー・テレサの思想と実践に求めている。」「二人は、この貧困克服の方向として、アヒンサー(真理、愛、非暴力、人間間の信頼)を重視した。」
 
③読後の感想
 作者の経歴から自然、構造学派・従属理論への偏重が見られるものの、その点を差し引きつつ、1990年代の開発経済学の主要潮流を俯瞰するための本、と理解しつつ読んだ。12本の論文をつなぎ合わせただけあってなかなか読みづらいものの、全体を貫く要旨は上記「②」で引用した箇所と思う。常に貧者の視点に立ち、経済発展モデルに人間らしさを取り入れようとする西川氏の姿勢は高く評価したいが、結局今後どのような開発経済学上の理論やモデルが実際の発展途上国に住む人々にとっての「解」たりえるのか、については、他の文献をあたらねば、なかなか見えてきづらいところ。

                          (岩波書店、2000年)


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