Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

絵所 秀紀 『開発の政治経済学』

①本の紹介
 構造主義新古典派→新制度派ら新しいアプローチ、と開発経済学が戦後誕生間もないころから辿ってきた変遷を丁寧に追った解説書。

②印象に残ったパート
 2ページ目の図「開発経済学の変遷」、本書の概要がざっくりひとつの表にまとめられている。
 147ページ目、第4章の冒頭、市場の失敗に着目し新古典派アプローチを見直す近年の動きを念頭に置き、「『政府』『市場』『制度・組織』という、三つの領域間の関係を総合的に把握する政治経済学研究が生まれ出てきたのである。開発経済学は大きなパラダイム転換の時期を迎えている。」この点を踏まえ、第4章では、構造調整の評価や開発国家を論じる「新しい開発の政治経済学」、取引ゼロ費用や情報の完全性など市場の完全性に疑義をはさみ市場以外の制度・組織を内生化しようとする「新制度派アプローチ」、内生的成長モデルなどソロー新古典派成長モデルの収穫逓減を否定する「新しい成長の諸モデル」、センらによる「潜在能力アプローチと人間開発」、の4つの潮流を概説する。
 177ページ目、『熱帯アフリカにおける市場と国家』で知られるベイツの議論の意義を「『政治制度には非効率的な所有権を産みだし、ひいては国家の停滞あるいは衰退をもたらす内在的な傾向がある』というテーゼを、アフリカの『収奪国家』を対象にして具体的に分析した点にある。しかしそれだけはない。ベイツの議論は、限りなく『新しい開発の政治経済学』の研究とも接近している」と評する。
 
③読後の感想
 学生時代に恩師から薦められていた本をようやく今になって手に取ったもの。発売後12年経った今でも色んなところで評価されているのは何でだろう?とつねづね思っていたが、開発経済学の形成と展開をざっくり掴む上で、この本を超える日本語の本はいまのところまだ現れていない、と読み終えてみて納得。「(開発経済学にとっての)構造主義って何?」とか「何で新古典派アプローチは見直されることになったの?」とか、開発に携わっている者にとっては今更人に聞けないような初歩的な質問でも、きれいに答えてくれる。手許において日ごろから色々と参照させていただきたい便利な本。

                                 (1997年、日本評論社


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