Foomin Paradise (読書ブログ)

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ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』

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 歴史学者のハラリ氏が、現生人類ホモ・サピエンスの誕生から現代までを描いた通史。

 

 本書によれば、20万年前に東アフリカで生まれたホモ・サピエンスは、7万年前の認知革命により決定的な優位をもち、1万3000年前までにネアンデルタール人など他のヒト属をすべて駆逐した。その後、約1万2000年前の農業革命、そして500年前にはじまった科学革命が、ホモ・サピエンスの道筋を決めた。認知革命のきっかけは不明だが、そのインパクトは絶大だった。虚構(架空の事物)を語る能力の獲得により、大量の情報伝達を可能にし、また伝説や神話、宗教を通じて大多数の人々を結びつけ、社会的な行動をおこさせることに成功した。この認知革命は、農業革命後の書記体系の発明と相まって、地域の境界を超えた大規模なネットワークへと発展していく。

 

 ハラリ氏が「最大の征服者」と呼ぶのは貨幣であり、その本質は「自分たちの集合的想像の産物」に対する信頼にある。当初の貨幣は麦や銀だったが、約2500年前に古代アナトリアで、王の権力への信用に裏打ちされた初の硬貨が発行される。こうした貨幣なしでは広大なローマ帝国の経済の維持は不可能であり、また東洋と西洋の間のグローバルな交易も不可能だった。貨幣はそれなりの代償(倫理の外に位置する冷酷さ)をも人類にもたらしたが、それでも、宗教や性別、人種、あらゆる文化よりも差別のない唯一の信頼制度という点で、「人類の寛容性の極み」であると表現している。

 

 科学革命を経た現代のホモ・サピエンスが向かう行き先について、ハラリ氏は冷静な目で見つめている。7万年前のホモ・サピエンスは地球上でとるに足らない生物のひとつだったが、今や「全地球の主」となり、生態系を脅かし、永遠の若さや生命の創造についての秘密まで解き明かそうとしている。生物工学、サイボーグ工学、非有機的生命工学をさらに推し進める結末として、人間の意識のアイデンティティに根本的な変化が起こるのではないか。そうした探求の流れを止めることはできないが、その流れに影響を与える上で重要な問い「私たちは何になりたいのか」「私たちは何を望みたいのか」について真剣に考えている人は、どれだけいるのだろうか。読者に途方もない問いを投げかける形で、本書の幕は閉じられる。

 

 プロフィール欄を見ると、著者のハラリ氏は、中世史・軍事史が専門で、1976歳生まれの40歳。当方のわずか7歳上だった。あふれる知性とセンスが合わさると、たとえ若くても、一見とてつもないテーマであってもここまで究められるものかと感じ入った。

 

(原著:Yuval Noah Harari “SAPIENS: A Bief History of Humankind.” 2011
 邦訳:柴田裕之 訳 2016年、河出書房新社

 

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