Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

マハティール・ビン・モハマド 『マハティールの履歴書 ルック・イースト政策から30年』

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 マレーシア元首相・マハティール氏の自伝の一部に、日経「私の履歴書」の同氏連載を合わせて一冊にした本。

 自伝の原著は分厚い本だが、出版社の都合により、邦訳は一部を抜粋した形にならざるを得なかったとのこと。それでも主要な章を抜き出し、同氏の生い立ちから首相を退くまでの半生が簡潔にわかる構成になっている。

 マハティール氏は、欧米の価値観や開発モデルと一線を画す国づくりを進め、アジア的な価値観を世界に発信したリーダーとして、シンガポールリー・クアンユー元首相と並び世界に知られる。本書でわかるのは、国家の難題と解決策を自らの頭で考え、断固実行する、意志と規律の人としての姿である。首相就任前の在野の時代、著書『マレー・ジレンマ』でマレー人の地位向上を謳い、ブミプトラ政策やマレー語教育の推進(後期はその見直し)を行った。また、通貨危機の際には政府・中銀の高官と毎日最低3時間の小委員会を行い政策を練り上げ、IMFの処方箋に従わず、統制的な為替管理と固定相場制の導入を行い、危機の影響を限定的に抑えた。その意志と規律は、父の帰宅が近づいたら兄弟皆あわてて遊ぶのをやめて勉強机に向かったという、厳格な家庭環境による部分も大きかっただろう。
 
 つい先日、同氏にお会いする機会があったが、御年90にして眼力衰えず、世界に知られた賢人としてのオーラが垣間見えた。マレーシアの政治は、いま混迷の途を深めつつある。かつて同国を築いた者として忸怩たる思いがあるに違いないが、もしかすると未だその存在感が大きすぎることも、マハティールに続く確固としたビジョンが出て来ないことの一因なのかもしれない。

(原著:Mahathir Mohamad “A Doctor in The House:
The Memories of Tun Dr. Mahathir Mohamad” 2011
 邦訳:加藤 暁子、2013年、日本経済新聞出版社

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