Foomin Paradise (読書ブログ)

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根本 祐二 『朽ちるインフラ』

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 元政策投資銀行東洋大学教授の根本氏が、日本の老朽化しつつあるインフラの現状と課題、その対策をまとめた本。
  
 ここ最近、老朽化する公共施設やインフラ(道路、橋梁、上下水道等)の問題がマスコミでも指摘されている。中央自動車道笹子トンネル天井版落下事故のニュースは記憶に新しい。こうした社会資本は大戦後の復興・高度成長期に整備されたものが多いが、半世紀を経た今ほとんどが老朽化している。また、東日本大震災で見られたように、災害時の耐性についても大きなリスクを抱えている。
 
 根本氏の試算によれば、国・地方あわせて今後50年間で必要となる更新投資の総額は330兆円、年平均で8.1兆円である。こうした更新投資は、新規投資と比べて一般に「票につながりにくい」ことから首長らの関心も低く、対応は後手に回りやすい。また、厳しい財政状況を見れば、こうした膨大な更新投資をすべて公費で実施するのは困難であり、近年国内でも制度が整えられてきた官民連携(PPP)の活用が不可欠になる。(本書によれば、PPPは、バブル期に活用された第三セクターとは、①リスクとリターンの設計、②契約によるガバナンスの二つの原則の遵守が求められる点で異なる。)

 根本氏は、複数の自治体でインフラ更新計画に関わった経験から、まず公共施設やインフラの現状(耐用年数や稼働率キャッシュフロー等)を数字で示し、客観的事実による議論を政治家や市民に共有することが重要だと説く。その上で、自治体の「バランスシートの左側」の改革として、①公共施設の仕分け(統廃合)、②施設の多機能化(スケルトン・インフィル工法の活用)、③適切なインフラマネジメント(不要な管路や橋梁の間引き等)、④施設・インフラの長寿命化技術の活用、⑤自治体の広域連携(施設共同利用やシェアド・サービス)、⑥不動産の有効活用(未利用地の商業利用等)を挙げる。バランスシートの右側の改革としては、国からの補助金や税収増にむやみに頼るのではなく、プロジェクトファイナンスやレベニュー債により案件ごとのリスクに応じた「規律ある」民間資金の調達を挙げる。他にも、資産の所有そのものをPPPにより民間に移したり、対象地域の市民が更新計画のモニタリングや更新後の維持管理に一定の役割を果たしたりすることが期待されるという。

 こうした一連の対策には、根本氏がこれまでの実務を通じて積み上げてきた知見の裏付けがあり、説得力がある。蛇口を捻れば当たり前のように飲める水が出て、全国津々浦々に舗装道路が張り巡らされた日本では、こうした社会資本やインフラのありがたみを感じる機会は少ない。目に見えないところで老朽化が進み、事故による人的被害、ひいては国力の低下につながりかねないという同氏の指摘は、この安穏とした認識を大きく揺さぶるものだ。国やいくつかの自治体でも対策の検討が進んでいるが、こうした問題意識はもっと広く共有されていい。

(2011年、日本経済新聞社

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