Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

マイケル・ルイス 『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』

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 元投資銀行員のライター・ルイス氏が、サブプライムローンの破綻に賭けた男たちを描いたノンフィクション。

 以前から評判を知っていたが読んでおらず、債券を勉強していた最近になって読んでみた。読み始めてすぐに、もっと早く読まなかったことを後悔。巻末で藤沢数希氏が書いているように「いままで、よくわからなかったものが、全て具体的に理解できた」のだ。各プレーヤーの動機(要するに、儲けること)に注目すると、その構造が見えてくる。住宅ローンを借りたい需要者。最初の2年は低利で固定、その後は変動という無茶苦茶な融資を貸し込み、証券化によりそのままリスクを投資銀行に移す住宅ローン業者。そうした高リスクの債券を組み直して見栄え良く再証券化機関投資家に販売、あるいはローン破綻に備えた保険を低い保険料で買うことでリスクを移す投資銀行投資銀行から手数料を受け取り、不十分な情報に基づき高格付けを出し続ける格付け機関。そして、少しでも低リスク高リターンの商品を望む機関投資家

 これまで今いちストンと落ちていなかったのが、高リスクの証券化商品に、なぜ格付け機関が高格付けを出し続けたのか、という点。本来、格付け機関がしっかりとリスク評価を行い、高リスク商品にはそれなりの低い格付けを付けるはずだが、「投資銀行には入れなかった二流の人たち」から構成され、投資銀行から手数料をもらっている格付け機関は、元のローンのリスクを分析せず、既存の評価モデルを再検討することもなかった。(年収2万ドルでも、過去に一度も借金を踏み倒したことがなければ、消費者信用スコア(FICO)は適正になる。ローン・プールの平均スコアしか見ないため、低スコアの人向けのローンが混じっていても優良ローンがその分混じっていれば、全体として適正基準を満たし格付けは高くなる。)更に、低い格付けのモーゲージ債も、複数集めて再証券化すれば高格付け部分が新たに生まれ、こうした再証券化商品がまた市場に出回ることになった。

 結局、危機の根源は何なのか。元ソロモン・ブラザーズのCEOグッドフレンド氏によれば「銀行家と投資家、両方の強欲」。いっぽうルイス氏は「ウォール街では、強欲は前提条件であて、見方によっては義務に近い。問題は、強欲への流れを作る報奨のシステムだろう」という。CDOの評価損により90億ドルの損失をモルガン・スタンレーに与えた債券トレーダーは、数千万ドルのボーナスと退職金を得た。凄まじい額の公的資金により救済された金融業界のCEOたちは、高い俸給を得ながら職にとどまっている。「お粗末な決断をくだしても金持ちになれるとしたら、どれくらいの数の人間が賢い決断を下そうとするだろう?」そしてルイス氏は、ソロモン・ブラザーズが1980年に合資会社から株式会社に転換した、つまりリスクを会社から株主に移転したことが、そうしたトレンドの源流ではないかと考える。

 本書のストーリーは、サブプライムローンが焦げ付く方に賭け、ローン破綻に備えた保険(CDS。火災保険と同じで、何もなければ保険料を払い続けるだけだが、焼け落ちれば多額の保険金が下りる)を買い込んだヘッジファンドのマネージャーたちを中心に進んでいく。彼らは、複雑な証券化商品の目論見書を読み、あるいは証券化された住宅ローンのデータから本当のリスクを見つけ出し、本来のリスクと到底掛け離れた値段で商品が市場で売りさばかれていることに気づいた。一方、サブプライムローンを買い続けた世界中のほとんどの投資家は、あるいはAIGのようなデフォルト保険の売り手は、元のローンの本来のリスクに気づかないまま、とてもつもない金額の損失を出すことになった。本書は、サブプライム危機に関する一級の解説書であると同時に、スリリングな一級のエンタテイメントにもなっている。
 
(原著:Michael Lewis “The Big Short: Inside the doomsday machine” 2010
 邦訳:東江 一紀 訳、2013年、文春文庫)


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