Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

大泰司 紀之、本間 浩昭 『カラー版 知床・北方四島―流氷が育む自然遺産』

 知床半島北方四島の自然研究/取材の第一人者によって描かれた、同地域の自然と生態系についての報告。写真も多数収録されており、ページをめくっているだけで楽しい。
 当方も本書に収録されている地図をまじまじと眺めて改めて認識したが、「北半球で最も南まで流氷が押し寄せ、海と陸とが一体になった生態系―このような生態系は、地球上でほかに存在しません」と冒頭で述べられるとおり、知床・北方四島は地球上でも稀な自然・生態系を有している。オホーツク海の流氷の南端にあたる同地域では、「黒潮の流れをくむ宗谷暖流、ベーリング海に起源をもつ低温で低塩分、富栄養の親潮。さらに冷却されたオホーツクの固有水の三水塊がせめぎ合い、複雑に交じり合う」。春には大量の植物プランクトンが発生し、そこを底辺として、クジラやラッコ、ヒグマやワシ、アザラシなどの動物を頂点とする豊かな食物連鎖のピラミッドが出来上がる。
 しかし、ソ連解体に伴う経済の自由化によって漁業資源の乱獲や陸地の開発が進み、同地域の生態系にダメージが蓄積されつつある。そこで著者が提案するのは、「知床の世界自然遺産の範囲を(北方四島を含め、ロシア領の)ウルップ島まで拡張」し、日露両国が責任を分担して生態系の保持に努めていくこと。同地域の自然・生態系に魅せられ、愛してやまない著者の提案は、説得力がある。
 民主党政権の愚策のせいで北方領土問題の解決は絶望的に思える昨今だが、正論の主張に加え、経済(貿易・投資)や環境保護など、可能な領域から共通の土台を醸成していくことが必要である。著者の提案は、この見地からも真剣に検討されてしかるべきと思う。

(2008年、岩波新書

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