Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

ダウド・ハリ 『ダルフールの通訳 ジェノサイドの目撃者』

 紛争真っ只中のダルフール地域において、CNNやBBCの取材クルーの通訳兼コーディネータとして活躍、世界に同地域の惨状を知らせる活動を続けるダウド・ハリ氏の回顧録。出身の村が政府系民兵に略奪されたエピソード、取材同行中に政府軍に身柄を拘束され拷問のすえ獄死しかけたエピソード・・・。ダルフール地域の「リアル」をそのまま伝えてくれる本。

以下、少々長くなりますが、本書の幾つかのパートをそのまま転載します。

「生きてジャーナリストをダルフールから帰し、世界の人々により多くの事実を知ってもらう。自分の村が襲撃に遭ってからは、それだけがわたしの生きている理由だった。心の中では自分はすでに死んだも同然だった。ただ、命の残されている間、何かの役に立ちたいだけだ。・・・危険に身を晒すことを選んだ。ただ、わたしの武器は銃ではなく、英語だった」

「チャドの国境からほど遠からぬところに、ぽつんと一本だけ生えている木のところで、一人の女性と、彼女の三人の子どもたちのうちの二人が死んでいるのに出くわした。三人目の子どもは、わたしたちの腕の中で息を引き取った。小さな子どもたちの肌は、しわくちゃになった脆い茶色の渋紙のようだった。・・・今でもこの瞬間を思い出さない日はない。
 ・・・ジャンジャウィードが村を襲撃したとき、彼女と娘二人、息子一人は、一週間監禁された。母親は繰り返しレイプされた。そして母子は、村から遠く離れた砂漠の真っ只中に置き去りにされた。貴重な弾丸を使うより安上がりだったからだろうか。それとも自分たちの種が彼女のなかで育てばいいと思ったのだろうか。彼女はそれから5日間、水も食料もないまま、子どもを抱えて砂漠を歩き続けた。」

「皆さんは、ダルフールの人間はすでに全員チャドの難民キャンプにいるか、死んでしまっただろうとお思いになるかもしれない。だが、ダルフールの広大さと、そのそれぞれの地域にものすごい数の村が詰め込まれていることを思い出していただきたい。まだ破壊されかねない村々があり、殺されかねない人々が大勢いる。いまだにそうなのだ。どこへ行っても、遭難する大勢の人々に出会った。
 ある村のはずれだった。うっそうと木々が立ち並ぶ一帯で、その村の防衛隊は最後の抵抗を試みたのだ。ライフルを手に高いところまでのぼり、木の幹に身体を括り付けていた。全員がすでに撃ち殺されていた。・・・しかし、次に目にする光景に比べれば、これすらまだ序の口だった。同じときに襲撃された81人の男と少年たちが、切り刻まれ、刺し貫かれて、折り重なるようにして死んでいたのだ。」

「別のテントに住む三人の少女たちも、薪拾いに行かなければならない。年長の少女は14歳、一番下の子はたぶん9歳くらいだろう、顔を隠すために、誇りまみれの黒いショールですっぽりと頭を被い、決して視線を上げない。ますで砂のなかに埋もれてしまいたいと思っているかのようだ。彼女たちは何度もレイプされた。しかし薪を手に入れるためにまたすぐ薪拾いに行かなければならない。女の子たちはそう話しながら泣いた。
 これと同じような話を、何百人という女性や少女たちから聞いた。国連や豊かな国々は、食糧とともに燃料を送ってくれないものか。あるいは効率のいいストーブを難民が作るのに力を貸すことができないものか。しかし、それはまだ実現されていない。」

 ハリ氏は、読者に対して「もし今皆さんとも友情の絆を結ぶことができたのであれば、どうか考えていただきたいのです」と訴え、「読んだ人が行動を起こしてくれなければ、わざわざ危険を冒してニュースを伝える意味はない」と本書を締めくくります。
 驚くべきことに、ダルフール地域での殺戮・略奪は、2009年3月の今も収束の兆しを見せていません。ハリ氏によれば、スーダンのバシル大統領は、ダルフール地域に住む土着の非アラブ系住民が「すべて消え去る」ことを目的として、いまも政権の座に居座り続けています。
 「忘れ去られた人道危機」とも呼ばれるダルフールの地域の惨劇を、日本国内のマスコミはもっと取り上げるべきであり、もっと多くの一般の人々がこの情勢を知る必要があります。日本政府も、同地域の和平構築プロセスやスーダン政府への外交圧力に関し、より積極的に関わっていくべきでしょう。

 また、いち個人として何ができるか。これも重い課題です。まずは以下をはじめとする各種ソースからの情報収集を続けるとともに、同地域で活動する団体への募金、(いれば)この問題に積極的な代議士への投票、などが思い浮かびます。

ハリ氏のウェブサイト↓
http://www.randomhouse.com/rhpg/features/thetranslator/
同氏が参加する Save Darfur Coalition ウェブサイト↓
http://www.savedarfur.org/content

このほかにも、ユニセフWFP国境なき医師団アムネスティ・インターナショナルなどといった団体のウェブサイトを通じて、同地域の情報にアクセスすることができます。


(原著:Daoud Hari with Megan McKenna and Dennis Burke "The Translator" 2008, Random House, Inc., New York.
邦訳:山内 あゆ子 訳、ランダムハウス講談社、2008年発行)


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