Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

岩村 暢子 『変わる家族 変わる食卓 真実に破壊されるマーケティング常識』

 広告代理店アサツーディ・ケイのプロジェクトを通じ、1960年以降生まれの主婦を対象として日本の家庭の食卓について調査を続けている岩村氏による同調査の報告。調査の対象となった食卓の数は2331。
 『美味しんぼ』で紹介されていて思わず買ってしまった本ですが、自分が育った家庭では母親が毎食きちんとご飯を作ってくれていたせいか、実際にこの本を読んでみて分かった現代の「食卓」は衝撃的でした。
 岩村氏が言うように、この本は問題分析や解決策について結論が示されているわけではなく、あくまでも調査結果が淡々と述べられているだけですが、それだけに少々暗澹とした気分にさせられます。以下は調査結果の一部。
 

1.食べることより遊びたい

・土曜日の夕方からディズニーランドに行った家族は、食べることにお金も時間も使わず有効に遊べるようにと、行く途中社内に持ち込んだハムサンドを、夕食にしている。飲み物もないが、気にしない。それよりは、「たっぷりと夜のディズニーランドを楽しみたかった」。
・「食べるくらいなら、旅行や遊びに行きたいよね、食べるよりどっか行って楽しむほうがいいよね、というのがうちの家族全員の考え方です」と語る主婦。「食べることとか、モノに重点を置いた生活をしたいと思わないですから。それよりも友達や家族とのコミュニケーション(遊び)を大事にしたいと思っています」


2.バラバラの食卓

・調査では、毎朝、家族そろって同じものを食べている過程は、100世帯調べてもたった1件しか見られない。ほかは全て、食べているものも食べている時間もバラバラ。
・調査を通して見えてくる現代の父親の姿:「昼食は作ろうとしていたのに、夫(37歳)がセブンイレブンのサンドイッチが食べたいと言って、我慢できず車を降りて買ってきてしまった」「みんなそろって夕食を食べるときも夫(45歳)は入浴後の整髪などしていて、いつもマイペース。自分のことが終わらないと、家族と一緒に席につこうとしない」


 食べ物の生産者と消費者との間の距離、インスタント食品や「中食」の普及、家族関係の希薄化、親の労働時間の増加・共働き世帯の増加・・・。現代の食卓の「変化」の背景はさまざまでしょうが、ともかく「みんなで一緒に食べること」の価値が相対的に低下してきているのは確かなようです。
 日々の仕事や趣味にかまけて自炊を怠りがちな自分は、世間の皆さんのことをとやかく言う立場にはありませんが、社会全体として何か良くないことの兆候のような気がしてなりません。少なくとも、自分が家庭を持ったときには・・・、難しいでしょうが、朝食・夕食は素材からちゃんと料理して家族全員で食卓を囲む、そんな家庭を持ちたい、と改めて思いました。

                                  (2003年発行、勁草書房


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