Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

小菅 正夫 ほか 『戦う動物園 旭山動物園と到津の森公園の物語』

 先月、うわさの旭山動物園に行ってきました。冬に行くのは初めてだったのですが、オオカミの遠吠えを生まれて初めて聞いたり、散歩するペンギンを間近で見たり、新しい発見や驚きがたくさんありました。雪がしんしんと降るなか、ペンギンやホッキョクグマは心なしか他の季節よりも元気に活動しているように見えました 笑。
 そんな旭山動物園で購入したのがこの本。旭山動物園の本はたくさん出ていて選ぶのに迷った末、この本を購入。旭山動物園と、北九州の到津の森公園の「再生」の経緯が、両園の園長による語り形式でつづられています。


1.動物園は何のためにあるのか

 旭山動物園の関係者の答えは「入場者に野生動物の命を感じてもらうこと」。
 同動物園が入場者減にあえいでいた1990年代、動物園の職員は、市の担当者から「旭山動物園に使う金はドブに捨てるのと同じだ」と言われたことがあった。動物園の存在意義について考え抜いた結果、出てきたのがこの答え。「奇跡」といわれた爆発的な入場者数増の背景である同動物園の「行動展示」も、この考えに基づいている。
 同動物園の小菅園長はこう言う。「・・・『人間が正常に暮らすには野生の動物がそばにいることが、どうしても必要だ』と確信を持ちました。『野生の動物がいないと、人間は精神を病む』のだと。」旭川市でも北九州市でも、市民アンケート調査の結果、遊園地よりも動物園を「残してほしい」という声が多数だったという。論理的にうまく説明できない部分もあるが、少なくとも、「都会に生まれて都会で暮らす子どもは、絶対に一度は動物園に行くべきだし、子ども自身も行きたいはず」と思う。


2.動物園はどうあるべきか

 旭山動物園に実際に行けば、そのヒントはあちこちに転がっている。
 何よりもまず、動物に限りなく野生に近い生活を送ってもらうための工夫が尽くされた動物たちの生活空間。各動物ごとの敷地も広い。以前訪れたマレーシアのクアラルンプール郊外の動物園とも共通している。日本の他の動物園で動物たちが窮屈そうに暮らしている風景を見ると、違和感を感じずにはいられない。本書の編者である島氏は「狭い檻のなかを右往左往する神経症のクマを見て、憂鬱にならないとしたら、その大人の感性はすりつぶされている」、同動物園の小菅園長は「動物たちがつらそうに見えたら、その動物園は負けだ」と言う。
 また旭山動物園では、飼育員の方々の思いが詰まった手書きのボードが秀逸。面白かったのは、ペンギンのコーナーにあったこんなフリップ:「ペンギンは魚やイカや小さなエビの仲間を食べる。ヒョウアザラシやシャチはペンギンを食べる。みんな必死に生きている」。他にも、地球温暖化などの人間活動による野生動物の居住環境の変化や、各動物の生態について、思わず考えさせられるメッセージが園内のあちこちに散りばめられている。

                                  (中公新書、2006年発行)


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