Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

田丸 公美子 『シモネッタの本能三昧イタリア紀行』

 今夏にイタリア旅行を計画していたこともあって、イタリアを70回以上も訪れたという日本屈指のイタリア語通訳・田丸氏のイタリア旅行記を手にとってみた。

 まず「シモネッタ」の通り名どおり、イタリア人の恋愛とセックスにまつわるエピソードが満載。1981年5月、ローマの公園で白昼堂々ベンチで事に及ぶ若いカップルと、その側で何事もないかのようにサッカーに興じる小学生の集団。思わず見つめる著者の足元には麻薬用の注射器。そのとき著者は、「誰もが好きに生き、他者の自由も許容する」イタリアで、「人の目を意識して生きる日本的なくびきから開放され、見も心も軽くなるのを」感じたという。本書の冒頭で紹介されるこのシーンを読んだ瞬間に、「イタリアってなんて凄いところなんだろう」と思ってしまった 笑。自宅の寝室の壁を女性の金切り声が外に漏れないようにコルク張りにしたナポリの考古学の権威。他人の車のボンネットの上で事に及ぶフィレンツェの道すがりの中年夫婦。ここまで自身の欲望に正直に生きる人々の様子を紹介されると、驚きを通り越してすがすがしささえ覚えてしまう。
 
 本書で描かれる内容は恋愛とセックスに留まらず、イタリアの幅広い社会や風俗、自然、ときには経済や政治にも話題が及ぶ。10代の頃からイタリアに憧れていた自分としては各章で紹介されるどの都市・地域も魅力的なのだが、とりわけ田丸氏が「文字どおり『筆舌に尽くしがたい』」と形容するポジターノ、ラヴェッロ、アマルフィカプリ島、イスキア島、とりわけ「海岸の高台にあるチンブローネ邸のテラスからの眺望は世界一」というアマルフィは、ぜひ近々訪れたいと思った。そういえば、先日飛行機の中で観た、織田雄二主演の映画「アマルフィ」で映し出されたアマルフィの海岸の景色は、壮絶な美しさだった。

 他にも、熱心な聞きぶりに感動して仕事抜きで街を案内してくれたヴェネツィアを愛する初老の地元ガイド、機知と戦術で観光客から日銭を稼ぐマテーラの少年、友人が保有する別荘で主人がシェスタから目覚めるのをじっと待つシチリアの住み込み管理人夫婦など、本書に収録された人間味にあふれたイタリア人のエピソードは、数十年前の出来事とはいえ十分に印象的である。本書を読みながら、学生時代に感受性をマックスにして文字通り生身で飛び込んでいった東南アジアでのバックパッカー体験を、なぜか沸々と思い出した。 

講談社文庫、2011年)

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