Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

大江 正章 『地域の力―食・農・まちづくり』

 ジャーナリストの大江氏による、農林業や公共交通、商店街の活性化など、全国各地の市民と自治体行政の取り組みを紹介する新書。

 大江氏の主張は、冒頭の「はじめに」に集約される:「そもそも公共サービスは、行政が独占して担うものではない。また、あらゆる規制を緩和して「民」(私企業)にゆだねるものでもない。NPOコミュニティ・ビジネスなどの効率だけにとらわれない「共」や「民」と「公」がそれぞれにふさわしい役割分担のもとに、連携していくべきなのである。」
 この理念については大いに賛成で、少子高齢化グローバル化が進む現代においては、社会サービスにおける役割を、中央政府から地方自治体や市民/共同体にどんどん委譲することが望ましい。その過程では、もちろん民間の知恵も大いに役に立つ。

 この意味で、本書で取り上げられている、すでに全国各地で進行中の取り組みの数々は示唆に富んでいる。当方も訪れたことのある徳島県上勝町の「いろどり」(http://blogs.yahoo.co.jp/s061139/32626232.html
)や、故郷の高知県でも有名な日本で最初に森林認証を取得した同権梼原町森林組合富山県富山市高岡市LRT(ライトレール・トランジット)など、地域のキーパーソンを中心としたうねり、関係者の活躍が生き生きと描写されており、すいすい読ませる。すでにこうした事例があるのだから、あとは国民と政治の覚悟しだいで、いくらでも改善の余地があるはずである。

 ちなみに英国のキャメロン政権は、財政緊縮の圧力に対応して国家的な実験を始めている。2010年8月14日付の「Economist」誌の記事(http://www.economist.com/node/16791650
)が詳しいが、非営利企業や私立学校(ときには親自身)によって運営される"Free School"、管区の警察業務を担う"Police and Crime Commissioners"の住民による直接選出、医療サービスにおける"General Practitoners (GPs)"への大幅な権限委譲など、肥大した官の変わりに市民/共同体の存在感を重視する政策を次々に打ち出している。英国は政府のあり方について常に時代を先導してきたが、「市場か政府か」二元論を超えて、市民/共同体がどのような役割を果たせるか。大きな期待感をもって英国の動きを見ている。

(2008年、岩波新書

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