Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

チャールズ・R・C・シェパード 『サンゴ礁の自然誌』

 サンゴ礁とサンゴを含む生態系について、サンゴ礁学(生物学と地質学がベース)からの一般向け解説。原著発行が1983年と古いが、サンゴ礁について包括的に概説した類書はあまりない。(白黒が多いのが残念だが)写真がたくさん収録されている点もお勧め。

 「百聞は一見に如かず」というが、サンゴ礁でのマリンダイビングなどで実際に「見」たことのある方でも、本書が教えてくれる「聞」には思わず耳を傾ける箇所があるのではないかと思う。当方は何度かサンゴ礁の海に潜ったことがあるが、恥ずかしながら本書を読むまで「サンゴは礁を作る腔腸動物の一種であり、そのグループはサンゴ、ソフト・コーラル(石灰の結晶を沈着させる代わりにゼリー状の基質をつくってその中に骨片をちりばめる)、ヤギ、ヒドロ虫など、多くの動物を含んでいる」ことすら知らず、「サンゴ礁に生えているものは全部サンゴだろう」などと勝手に思っていた。礁を形作る石灰を生み出すという意味でサンゴ礁の主役は確かにサンゴなのだが、それ以外にもたくさんの腔腸動物や、藻やプランクトンといった植物、魚や軟体動物といったその他の動物がいて、豊かな生態系を形作っている。

 サンゴ礁学の第一人者がかのチャールズ・ダーウィンで、彼ほど大きな功績を残した研究者が現代に至るまで出ていないことも、本書を読んではじめて知った。シェパード氏によれば、進化生物学とサンゴ礁学の接点は「生存競争」にあり、礁はまさに「激しい闘いの場」である。その中で生物は、褐虫藻腔腸動物との共生関係(藻の光合成に必要な二酸化炭素腔腸動物のポリープによって生み出される。光合成によって生まれる酸素と炭素は腔腸動物にとって必要なものである)をはじめ、厳しい食物連鎖の中で賢く生き延びていく共生の知恵を発達させてもいる。

 シェパード氏は、最終章を印象的な比喩で締めくくる:「(熱帯雨林に関して)怠慢と目先の利益のためにこれを破壊するのは、手近にキャンパスがないからと言って、レンブラントの絵をつぶして、上から絵を描くようなものだ・・・サンゴ礁に関しても同様である。サンゴ礁の持つ財産は値段のつけられないものだ。」サンゴ礁を持つ国々の統治機構は往々にして脆弱で、開発優先のためにサンゴ礁にダメージを与えることもままある。シェパード氏のメッセージは現在にも通じるもので、まさにそこにサンゴ礁保護の難しさがある。

(邦訳:本川 達雄 訳、平河出版社、1986年。
 原著:Charles R. C. Sheppard, "A Natural History of The Coral Reef" 1983.)

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