Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

藤原 正彦 『国家の品格』

 近年日本でも幅を利かせる欧米型の「論理と合理」にかえて、日本古来の「情緒(懐かしさ、もののあわれ)」や「形(武士道精神)」の価値観を取り戻すべき、と説く数学者の藤原氏による2005年発売のベストセラー。昔の本棚の整理していて出て来たもので、再度ぱらぱらと読み返してみた。

 欧米はもちろん世界で存在感を増す新興国と向き合う上でも共通のツールはまず「論理と合理」であることを踏まえたうえでだが、「情緒や形を取り戻すべき」という藤原氏の主張にはおおむね賛成である。海外に行ったり住んだりする時間が長くなればなるほど、日本人としてのアイデンティティを否が応でも自覚させられるが、そのときに思い浮かぶものは、儒教であったり仏教であったり新渡戸稲造の「武士道」であったり四季折々の豊かな日本の自然であったりする(最近は何故かドラマ「坂の上の雲」に出てくる無骨で高潔な軍人の姿が思い浮かぶ)。冷静に考えてみても「最も重要なことは論理で説明できない(たとえば「人殺しをしてはいけない」)」、つまり人間と社会について論理で説明できる部分は一部に過ぎないことを踏まえると、同氏の主張に頷けるところは多い。

 他にも、「結局、自由の強調は『身勝手の助長』にしかつながらなかった・・・どうしても必要な自由は、権力を批判する自由だけ」「国民は永遠に成熟しない。放っておくと、民主主義すなわち主権在民が戦争を起こす・・・真のエリートというものが、民主主義であれ何であれ、国家には絶対必要」など、示唆に富む箇所が随所に見られる。ややもすると極論だが、思わず色々と考えさせられる。後者については、個人的には、民主主義より良い統治手法はないと思っているし、血みどろの20世紀という教訓を「国民」も持っているのだから、もう少し民主主義に対して楽観的になっても良いのでないかと思う(日本の場合は、国民もメディアももう少し政治や政策に敏感になるべきではあるが)。

(2005年、新潮新書

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