Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

山本 敏晴 『世界で一番いのちの短い国 シエラレオネの国境なき医師団』

 MSF(国境なき医師団)で活躍され、近年は自ら立ち上げたNGO宇宙船地球号」(http://www.ets-org.jp/
)で活動する山本敏晴氏による、シエラレオネでのMSF派遣経験(2001年~2002年)をつづった本。
 同氏は国際協力についての多数の本を出版しておられるが、そのうち『世界と恋するおしごと 国際協力のトビラ』『国際協力師になるために』は学生時代に読み、大いに参考にさせていただいた。この分野で進路相談に来る大学の後輩にも、これらの本をまず薦めることにしている。

 本書は、2002年に刊行された同氏の処女作。ユーモアあふれた筆致、人間への温かいまなざし、山本節が随所に満ちあふれている。シエラレオネの厳しい医療状況とMSFの過酷なオペレーションを描いた本であるのに、本全体を通じて重苦しいトーンはない。

 山本氏の最大の仕事は、シエラレオネ中央部のトンコリリ州州都マグレブカの州立病院の再建だった。医療活動の責任者として派遣された山本氏、看護師に加え、政府軍、反乱軍、民兵、国連軍、地元の酋長ら多方面に絶えず気を配り安全面を含めプロジェクトの全責任を負うプロジェクトコーディネータ、物資調達や施設管理、労務管理を一手に担うロジスティシャンが、所属チームに配されている。MSFのフィールドでの活動の実際の様子を知りたい人にとっては一読の価値がある。
 
 最終章には、山本氏が考える国際協力の「6つのポイント」が記されている:①教育とその後のシステムの確立、②現地の文化・風習の確立、③悲惨さを誇張せず、彼らも対等の立場の人間として認識する、④子どもを助ける場合、ファミリー・プランニング、すなわちコンドームを配り、これを使うように、徹底的に現地の人々に教育することは大変重要である、⑤お金を与えるのではなく、貸す、⑥無償で奉仕する人間がいる、ということを世界に広める。
 6番目のポイントはとりわけ強く印象に残った。喜捨が当たり前のムスリム圏において、「自分が感謝されるためではなく、彼らのために、本当に無償で他人に奉仕する人間がいることを示したかったのだ。このためには、まず彼らの言葉を覚え、世の中にイスラム教を信じていない人々がいることを説明し、しかるのちに、お金や食べ物や薬を与えるだけではなく、彼らのそばで、毎日十二時間以上、土日もなく働き続け、身をもって彼らの家族を病魔から助ける必要があった」と語る山本氏の信念とエネルギーには、ただただ頭が下がるばかりである。

 たった半年間の期間で、医師としての通常の医療活動を行いながら、現地語(ティムニ語)を習得し、その言語を使って州立病院のスタッフに対する研修を継続的に実施した。月に約2,500人が外来する州立病院を人員・施設とも再建の軌道に乗せ、MSFオランダが担当する他の4つの州病院にも巡回指導を行った。同氏はユーモアや失敗談を交えてさらっと書いておられるが、想像を絶する仕事である。しかも、たった半年間で。果たして将来、37歳ごろの自分に同じような仕事ができるかどうか、と考えさせられた。

白水社、2002年)


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