Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

友成 晋也 『アフリカと白球』

 アフリカ野球友の会の代表である友成氏が、1996年から99年にかけてガーナのナショナル野球チームを監督として率いた経験を描いた本。

 同氏がガーナに駐在員として赴任したのが1996年、青年海外協力隊との親善試合で出会った自称ガーナナショナルチームを、ひょんなことからコーチとして指導することになる。オリンピックへの出場という夢を目指して、日本式の練習の導入、政府による監督指名、日本での募金活動、ナイジェリアとの国際試合を経てついにオリンピックアフリカ予選に出場、オリンピックには行けなかったものの大会4位という成績を収める。

 異文化の中でときに選手らと衝突しつつ、オリンピックという目標に向かって突き進んで行く様子は、清々しい読後感を残す。当初は選手の私生活と距離を空けていた友成氏は、日本のTV企画で来訪した元カープ高橋慶彦氏から「建前も大事だけど、チームが勝つ事が今一番大事なんやろ。泥を飲まにゃならんこともあるよ」と諭されたのを機に、球場の外で彼らが置かれた環境にも目を配るようになる。選手の勤め先に練習への配慮を求めたり、選手の海外旅行時の日当(実際の旅行中は不要でも、家族親戚に分け与えなければならない)を工面したり。ガーナ政府に野球連盟の強化を求める訴えをするときも、本音と建前を使い分けるガーナ人の性格を掴んだ上で、ときに相手を持ち上げつつ、あの手この手で目標を達成する。選手の成長と歩調を合わせるように、友成氏自身も自らの考え方やマネジメントの手法を変化させていく様子に、思わずの応援の声を上げたくなる。

 また興味深かったのは、最終章で友成氏が職場の同僚と、ガーナで野球を広めることの意味について対話した部分。水や保健といった基本的な社会サービスすら担保されない国で、野球を広める意味が果たしてあるのかと悩む友成氏に対し、その同僚は、「保健医療なんかの協力は、BHN、すなわち人間の基本的欲求は満たしますが、生きがいまでは提供できない」と返す。以前初めてこの本を手に取ったときに当方も「なぜアフリカで野球?」といぶかったことを覚えているが、その後何度となくアフリカを訪れるうちに、この疑問はすんなりと腑に落ちていった。国は違えど、誰しもが夢や好きな事を持っており、それがあれば、つらいときや挫折したときでも、何とか前を向いて歩き始めることができる。そしてアフリカ諸国ではサッカーが絶対的な人気スポーツではあるが、日本もそうであるように、サッカーよりも野球のほうが好きで熱中できる少年少女は、アフリカ諸国にもたくさんいるだろう。この意味で、上記の「アフリカ野球友の会」の活動はもっと知られて良いし、他にも世界に冠たる野球大国として日本が出来ることはもっといろいろありそうである。

(2003年、文芸社

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