Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

川島 良彰 『コーヒーハンター 幻のブルボン・ポワントゥ復活』

 世界各地のおいしいコーヒーを追い求めるコーヒーハンターとして知られる川島氏が、レユニオン島の幻のコーヒー「ブルボン・ポワントゥ」を復活させた経験を中心に、自らの半生を描いた本。

 川島氏の略歴の詳細は上記のリンクを見てもらえば良いが、高校卒業と同時に自ら志願してエルサルバドルに留学、当時世界最先端の国立コーヒー研究所で働くなど、その行動力は半端ではない。夢に向かって努力する人たちは世の中に数多いるが、理論と実践の両面でここまで一つの道を究め、かつ実績を残してきた人というのはそう中々いないと思う。仕事の関係で川島氏と少しだけお目にかかったことがあるが、多くの人を巻き込んで行くだけのパワーに満ちた同氏のパーソナリティに、終始圧倒されたのを覚えている。その根底には、本書でも随所に表れるコーヒーの品質に対して誰よりも妥協しない徹底した姿勢があって、それが他者を納得させるだけの説得力を同氏に与えているのだと思う。

 本書の後半、エルサルバドル時代から温めてきた、ブルボン種の原木を見つけ、失われた「ブルボン・ポワントゥ」を復活させるという夢が24年後に実現していくくだりは、コーヒーに詳しくない読者でも熱中させてしまうドラマ性を備えている。フランス本国を説き伏せて「ポワントゥ」再生のための財源を獲得したレユニオン島の県庁・議会や、その夢に賭けた同島の生産者ら多くの関係者が尽力したのは明らかだが、誰よりも早くプロジェクトの価値を理解し、熱意をもって同島の県庁に「ポワントゥ」の存在を知らしめたのは川島氏である。本書の筆致は淡々としているし、また「あとがき」をはじめ常に他者への謝意が前面に出ているが、それがまた同氏の行動力と業績の大きさを浮き立たせることになっている。

 本書はまた、中米を始めとする世界各国の生産地の様子や、コーヒーの品種やサプライチェーンの概略についても分かりやすく触れており、コーヒー初心者としてはとても参考になる。コーヒー好きの方なら必読だし、そして個人的には、「夢を貫く」ことに何らかのためらいを覚えている特に若い人たちに、ぜひ手に取ってもらいたい本だと思っている。

平凡社、2008年)

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