Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

白戸 圭一 『ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄』

 毎日新聞の白戸氏が、ヨハネスブルク駐在時代の4年間で取材したアフリカ各国のうち、「グローバリズム」と「暴力」をキーワードに、ソマリアコンゴ民主共和国ダルフール、ナイジェリアなどでの取材経験を報告する。

 欧米のジャーナリストによる優れたアフリカの報告を読みなれていたせいか、正直あまり期待しないで手に取ったのだが(申し訳ありません)、面白さのあまり一気に最後まで読み通した。反乱軍の首領や金脈に食い込んだコンゴ民主共和国東部の取材、チャドから密入国してまで反政府勢力の内実を明らかにしたダルフール地方の取材、護衛部隊を雇って堂々乗り込んだ破綻国家・ソマリアでの取材。「暴力」という視点でアフリカ大陸を切り取った際に必ず浮かび上がるホット・スポットに、正面から乗り込んで行き、キーパーソンに切り込む。全体の構成や表現には粗いところもあるが、先日紹介したカプシチンスキー氏に負けるとも劣らない取材力を備えた方だと拝察した。現代アフリカの紛争地域にここまで食い込んだジャーナリストはそう居るまい。

 経済成長と格差の激しい南アフリカでは、近隣国から少女を密入国させ売春させる人身売買ブローカーに接触する。ブローカーが白戸氏に見せたのは、まったく白紙の、スワジランドの正規パスポート。出入国管理局も、犯罪グループと裏でつながっているのである。
 ナイジェリアでは、石油によって潤う政府高官や石油会社幹部とは裏腹に、油田の村は騒音や汚染に悩まされ、電気さえも自前のジェネレータに頼っている現実が浮き彫りにされる。石油会社幹部と一般庶民(バーのウエイトレス)との給与格差は450倍に及ぶ。
 コンゴ民主共和国では、東部で跋扈する軍閥の首領や兵士にインタビュー。幹線道路の検問所や鉱山の違法採掘・密貿易、近隣住民からの収奪によって自活を続けていくメカニズムを明らかにした。ときには外国の高山会社から「みかじめ料」を徴収することもある。MONUC職員の匿名での証言「MONUCがいくら平和維持に力を入れたところで、企業が武装勢力を太らせていては意味がありません」には戦慄が走る。
 ダルフール地方では、政府軍・アラブ系民兵による容赦ない民間人の殺戮の実態、国外のネットワークを維持しながらハルツーム独裁政権に対するレジスタンス活動を続ける反政府勢力の素顔に迫った。元国軍大佐によれば、軍と民兵ダルフールの住民虐殺に踏み切った理由は、「反政府勢力の兵站を根絶すること(非アラブ系のザガワ人やフール人の村々は食糧拠出などの点で支持基盤となっている)」、「軍が民兵の自活を原則としたこと」、にある。

 アフリカ、紛争、グローバリズム。教科書には載っていない世界の現実が、生々しく報告される。近年の日本人ジャーナリストによる報告の中では出色。英訳して欧米で出版されてもいいくらい。日本のジャーナリズムもまだまだ捨てたものではない。
 白戸氏は、先月始まったForesightウェブ版(http://www.fsight.jp/
)では、アジ研の平野氏とともに「アフリカの部屋」を主宰している。こちらも要チェックである。
 
 (東洋経済新報社、2009年)

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