Foomin Paradise (読書ブログ)

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ジェイソン・スターンズ 『Dancing in the Glory of Monsters』

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 アフリカ大湖地域の専門家であるスターンズ氏が、関係者インタビューや現地取材を通じ、二度にわたったコンゴ戦争の経過を読み解くノンフィクション。

 1990年代のコンゴ民主共和国(DRC、旧ザイール)はまさに激動。30年以上に渡り圧政を強いて来たモブツが冷戦構造の後ろ盾を失ったことで、急激に権力の空白が生まれる。DRCと強い利害関係を持っていたルワンダが反政府勢力の親玉としてかつてチェ・ゲバラも見捨てたローラン・カビラを担ぎ出し、首都キンシャサを攻略したのが第一次コンゴ紛争。その後心変わりしたカビラに対してウガンダルワンダが侵攻、そこにアンゴラジンバブエらが参戦して権益を奪い合った「アフリカ大戦」が第二次コンゴ紛争。この過程で命を落とした人々の数はおよそ600万人と言われる。

 本書で紹介されるこの戦争に直接携わった人々、加害者と被害者の両方から聞き取った内容はリアルそのもの。中には目を背けたくなるような描写もある。彼らが語る対立のメカニズムは極めて複雑だ。そのファクターのひとつは、コンゴの中で迫害され続けてきたルワンダ移民(バニャルワンダ人、バニャムレンゲ人)。反乱軍の一員として民間人を殺害したツチ系の兵士は「仕方がなかった。やらなければ俺が疑われた」と述べ、彼らがそれまでDRC国内でどんな仕打ちを受けてきたかについて理解しなければならないと言う。また隣国ルワンダが果たした役割も重要だ。老兵ローラン・カビラをタンザニアから呼び戻し、兵站と情報、実動部隊まで与えてキンシャサまで進軍させたのはルワンダだ。その道中ではジェノサイド実行犯と疑った一般市民を含む多くの人々を殺戮した。また第二次コンゴ大戦では、同じように傀儡の反乱軍を仕立て上げDRCの3分の1を占領、かの地の住民を恐怖の支配下に置いた。

 そしてスターンズ氏は、これまでまともな指導者をもったことのない、コンゴ民主共和国という国の悲しい歴史、その中で生きてこざるを得なかった人々、そして冷戦下の国益と広大な地下資源によって常に恣意的に介入してきた西欧とアフリカの他の国々に、戦争の背景を見いだす。国家がまともに機能してこなかったDRCでは、どんなに意思を持った政治家であっても、政治基盤の脆弱さと国家行政基盤の脆弱さの両方に直面せざるを得ない。実際のところ「ビジョンと民衆の視点を持った指導者」はこの国に決定的に欠けてきたもので、人種に頼らずに政治社会体制を再建する作業には「何世代もかかるだろう」と同氏は言う。そして国際社会は、こうした経済社会支援や他の紛争国で行われたような和解プロセスを主導して、その責任を果たさなければならないと述べる。

 コンゴ紛争の第一の責がルワンダにあるのは明らかだ。当時の旧ザイールのモブツ政権が、虐殺に関与した大量のジェノシデールを含むフツ難民を恣意的に守護しようとしたのは事実だ。それと時を同じくして、同国のバニャルワンダ人が不当に差別されていたことも。しかしだからといって、隣国に無造作に押し入り蹂躙することの正統性はなかっただろう。国際社会は、この弱った巨像に容赦なく槍を突き刺す隣の小国に対し、じゅうぶんな圧力を掛けなかった。ルワンダは、「ジェノサイドのときに何もしなかったのは国際社会だ」というレトリックを十二分に活用したのである。その結果、600万とも言われる人命が失われた。 

 この大湖地域が抱える政治的火種、DRCとルワンダの反目はいまだ解消されていない。2013年に国連軍がDRCのツチ系反政府勢力M23を壊滅させた際には、以前から同勢力を支援していると批判されていたルワンダは、国際社会の圧力に屈して静観の構えを見せた。国際社会が目指すべきは、上記のルワンダ政府のレトリックをつぶすためにも、同様に東コンゴ地域に残存する反政府勢力FDLR(ジェノサイドを主導しルワンダ内戦後にDRCに逃げ込んだフツ系勢力)を次に駆逐し、長期的には、東コンゴ地域にまともなガバナンスを打ち立てることだ。そしてそのガバナンスは、少数派のルワンダ系住民を意図的に圧するものであってはならない。その上で、平和を保ち、人とモノの行き来を盛んにする。ルワンダ政府も、下手に東コンゴ地域におけるコンゴ民政府の統治を弱めようとするよりも、同地域を平和な状態に置き、経済的にともに成長し合うほうが、長期的にみて利が大きいと理解する必要があるだろう。

(Jason K. Stearns "Dancing in the Glory of Monsters: The Collapse of the Congo and the Great War of Africa" 2011, Public Affairs, New York)

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