Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

白戸 圭一 『日本人のためのアフリカ入門』

 『ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄(http://blogs.yahoo.co.jp/s061139/33575979.html
)』で知られる毎日新聞記者の白戸氏による新刊。

 アフリカを知るための入門書という触れ込みで世に出る新刊は、最近とみに増えている。今回白戸氏が同様の趣旨で新刊を出されると知り、前著のようなアフリカの実相に迫る内容を期待していた当方としては少々がっかりしていたのだが(失礼)、実際に読んでみて、まったく良い意味で裏切られた。
 本書の主題は、「現代を生きる日本人はアフリカの人と社会をどう認識してきたか」であり、同氏のメッセージは、「私たちは、アフリカの人々が少なくとも我々と同じ程度に祖国に誇りを持ち、我々と同じ程度に優秀で、我々と同じ程度に幸せな暮らしを営んでいることを知っているだろうか」という一文に集約される。
 フジテレビのバラエティ番組「あいのり」のエチオピアロケで行われた強引なシナリオ作りの例は、おそらく日本メディアのアフリカに対する無知、そして無知から来る傲慢が、端的に表れた一例である。白戸氏は、「そこには撮影の舞台と取材対象が『アフリカだから構わない』という感覚が、どこかにあったのではないでしょうか」、と述べている。
 アフリカに対する無知と傲慢は、何もアフリカとの関わりの薄い日本だけの専売特許ではない。白戸氏は、昨今の欧米メディアによる反ムガベ大統領キャンペーンが、そもそも同国の土地問題にかかる英国労働党政権の資金援助解消と、ムガベ政権の反抗に起因していたことを喝破した元ジンバブエ大学教授の吉國恒雄氏の言を引き、先進国メディアによるアフリカ報道の浅さ・短絡さを自戒している。

 こうして見ていくと、西欧諸国がアフリカに対してデフォルトで抱いているステレオタイプや、無知、傲慢の類を、バリバリと剥ぎ取っていくことこそが、アフリカに相対する上での何よりの「入門」であることが明らかになってくる。これを実現するためには、アフリカ発の数多くの情報や分析に触れるとともに、可能な限り自分の足で現地の都市や農村に出かけていき、五感でアフリカを理解する不断の努力を地道に積み重ねていくより他ない。
 必ずしも目を引くようなセンセーショナルな事象を扱っているわけではないが、それでもなお本書は日本人にとって重要なメッセージを放っており、一読の価値がある。また、行間から伝わってくる著者の控えめで真摯な姿勢も、本書の説得力を増している。巻末の推薦図書リスト(10冊)も、これからアフリカについての理解を深めようとする読者には、重要な手がかりになるはずである。

(2011年、ちくま新書


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