Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

セルジュ・ミッシェルほか 『アフリカを食い荒らす中国』

 『ルモンド』紙のミッシェル氏、『レブド』誌のブーレ氏らによる、現代の中国・アフリカ関係を抉るルポルタージュ。目まぐるしく移り変わる舞台の隅々まで理解するには予備知識のない読者は少々厳しいかもしれないが、単なる情勢報告に留まらず変化する中国・アフリカ関係を多様な側面から切り取っており、ページをめくるごとに新たな発見がある。
 
 本書の原著発行は2008年だが、その時点で既に、中国がサブサハラ・アフリカ諸国に援助や投資のかたちで流し込んだ資本は、スーダンに約1兆3000億円、ナイジェリアに1兆4000億円、アンゴラに5900億円、コンゴ民主共和国に約1兆2000億円。最近の金融危機をものともせず、現在の2011年においても、その額は増え続けている。援助やインフラ投資は言うに及ばず、ナイジェリアなど古くから国交を有する国では、民間の中国人が、政権中枢と深いパイプをもって、鉱業や製造業を含む様々な産業において成功を収めている様子が、本書でも紹介されている。「アフリカ市場は、恒常的な物不足で、旺盛な需要がある。そのうえ、競争相手はほとんどいないか、まったく存在しない」のである。
 世銀など国際開発金融機関の資金で調達する援助案件の競争入札においても、サハラ砂漠でも冷房なしの車・家という条件で乗り込んでくる中国企業は、従来から存在する西欧企業を殆ど駆逐している。そうした中国企業を、低利融資やコンサルティング、情報提供などで全面的に支える中国政府の存在も、欧米諸国にとっては脅威である。ナイジェリアで成功を収めた中国人実業家は、「中国はアフリカを踏み台にして、米国に追いつき追い越すつもりなんです。だから、アフリカのためなら何でもやりますよ。赤字しか見込めないナイジェリアの鉄道も建設するし、ナイジェリアが人工衛星を宇宙に運んでほしいといえば、ちゃんと軌道に乗せてあげますよ」と述べる。

 しかし、アフリカ大陸における中国の驀進は、同時に現地での矛盾を生んでもいる。本書でも、ザンビアやナイジェリアの建設現場では、低い給与や劣悪な労働環境、中国人管理職の横暴に対して憤る現地人労働者のコメントが、いくつも紹介されている。コンゴ共和国・バコンゴの住宅建設プロジェクトの現場では、労働者の基本給は、国が定めた最低基準2500セーファフランに足らない日給1800セーファフラン。食費と交通費を引かれると800セーファフラン(約160円)しか残らない。アフリカでもっとも外資(中国)批判が高まっているザンビアでは、中国企業のダイナマイト工場での爆発と遺族補償金の未払いの問題に象徴されるように、現地住民・労働者と中国企業の対立はもはや修復不可能なレベルにまで達している。
 本書のエピローグは、怒涛の進出を見せる中国に対してアフリカ人が持つ反感が、今後の中国・アフリカ関係を占う重要なファクターになりうることを示唆している。4/20付Economist誌によれば、これは既に現実のものになりつつある。同記事によれば、①怒涛の資本進出により現地で軋轢を生んでいること、②(より一層)不正や汚職の文化を流入させていること、③資源の収奪者として見られ始めていることなどにより、中国のアフリカ投資に新たな見直し局面が生まれているという(http://www.economist.com/node/18586448
)。本書でも紹介されているエピソードだが、2007年にシノペック社との30億ドル規模の精油所建設契約を破棄したアンゴラなど、中国と一定の距離を置く国もいくつか現れ始めている。
 こうしたアフリカ側からの揺り戻しの動きは、至極健全なものと見るべきだろう。理想は、中国の投資がより現地での雇用や生活水準向上に配慮するようになり、現地政府が経済発展の経験によってまともな経済政策を主導するようになるという、先進国・中心国では当たり前の構図である。この中国に対するバックラッシュに対し、欧米や日本の政府・企業は、単に溜飲を下げるだけではなく、そして単に従来の概念やスローガンの押し付けに拘泥するのではなく、明示的な行動によってサブサハラ・アフリカの発展に積極的に貢献していく必要がある。

 ちなみに、本書の邦題は少々センセーショナルな装いとなっているが、原題は「シナフリック(中国アフリカ)」、植民地支配後も援助によってアフリカでの権益を確保しようとした、ジャック・フォカールらかつての「アフリカ人脈のフランス人」と彼らのアフリカとの不透明な関係を揶揄した呼称「フランサフリック」をもじったものである。

(邦訳:中平 信也 訳、2009年、河出書房新社
 原著:Serge Michel et Michel Beuret, photos de Paolo Woods "La Chinafrique." 2008, Grasset&Fasquelle.)


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