米原 万理 『旅行者の朝食』
今更ながら、しかも何故かパリで、米原万理にはまっている。本書は、大変なグルメでも知られる同氏の、世界各地の料理についてのエッセイをまとめた文庫。
米原氏が古今東西で出会った美味・珍味の数々は、読んでいて思わず涎が出そうになるほどおいしそうである。同氏が小学生のときに魅了され、数十年にわたってその秘密を追い続けた、伝説のイラン菓子「ハルヴァ」。釣り上げた瞬間に冷凍された魚をカンナでスライスし、玉葱のスライスと塩胡椒でいただくシベリアの魚料理。おいしい食べ物に出会って小躍りし、期待はずれな食べ物に出会っては意気消沈する食いしん坊の米原氏には、共感するところ大である。岡山の黍団子を食べて「あまりにもつかみどころのない無個性な味に思いっきり落胆した」という描写には、自分も子どもの頃に岡山駅で食べた記憶を思い出し、「うんうん、そうだよね」と思わずうなずいてしまった。
本書の終盤にある、アングロサクソンの食文化に対する厳しい突込みも興味深い。米原氏は、「(世界を制覇したアングロサクソンの)力の謎は、ひょっとして、あの料理のまずさにあるのではないだろうか。・・・こういう粗食で育った人間は、世界各地、どんなところへ派遣されようと、食い物に不満をいだくことはあるまい」と述べている。英語圏の方に喧嘩を売るわけではないのだが、確かに当方の周辺で英米に留学・滞在した友人・知人は、口を揃えてかの国の食文化の貧しさを嘆く。アフリカによく出張する当方の同僚の間では、仏語圏(旧仏植民地)に比べて、一般的な感想として英語圏(旧英植民地)の食が味・文化としての奥行きともにいまいちであることは、もはや常識の類になっている。
ちなみに、本書のタイトルになっている「旅行者の朝食」は、旧ソ連の国営企業が生産していた「おそらく穀物系の澱粉質と蒸し煮した何かの肉をペースト状に混ぜ合わせた代物」で、米原氏はロシアの小咄を手がかりにこの缶詰の正体を探ってゆく。このまずい缶詰の生産販売をやめるともなく延々と続け、小咄のネタにまでしまった旧ソ連の人々を思い浮かべ、思わず苦笑いしてしまう。
ちなみに、本書のタイトルになっている「旅行者の朝食」は、旧ソ連の国営企業が生産していた「おそらく穀物系の澱粉質と蒸し煮した何かの肉をペースト状に混ぜ合わせた代物」で、米原氏はロシアの小咄を手がかりにこの缶詰の正体を探ってゆく。このまずい缶詰の生産販売をやめるともなく延々と続け、小咄のネタにまでしまった旧ソ連の人々を思い浮かべ、思わず苦笑いしてしまう。
(2004年、文春文庫)