Foomin Paradise (読書ブログ)

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ジェラール・プルニエ 『From Genocide to Continental War』

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 フランスの歴史家プルニエ氏が、ルワンダのジェノサイドに端を発するアフリカ大湖地域の動乱の推移と展望を論じた本。

 同氏は、一連のコンゴ戦争を、冷戦終結に伴う新たなアフリカ史の始まりとして位置づける。それまでアフリカ諸国の戦争は冷戦下のイデオロギー植民地主義に彩られていたが、1990年代からは「アフリカの問題」による戦争という構図がいっそうあらわになる。具体的には、各国のあいまいな国境線と民族問題、正統性をもちえない国家、そして破綻した経済運営といった問題が絡み合い、複雑な利害関係によって衝突が生じた。コンゴ戦争はその劈頭にして最たるものであり、同氏は同戦争を20世紀に欧米諸国が戦ったような国益同士の衝突ではなく、むしろドイツ30年戦争のような各主体による同一地域における収奪合戦のような呈を示したという。
 
 本書は、ルワンダのジェノサイドをきっかけとして始まった二つのコンゴ戦争とその後の不安定なコンゴ情勢について、さまざまな先行研究や統計を引きつつ丹念に描写する。スーダンウガンダの反目、アンゴラの国内情勢(内戦)、ザイール内でのジンバブエの利権など、多くの諸国・勢力がそれぞれの利害をもって戦争に参加した。「アフリカ大戦」と呼ばれた第二次コンゴ紛争では、突き詰めるとカビラ政権を覆そうとするルワンダウガンダ(この両者も後に対立する)とこの動きに反発したアンゴラジンバブエナミビアとの対立が、主な構図だった。その中心にいたのはルワンダで、残存する旧ルワンダ政府勢力の掃討(と領土的野心)のため東コンゴ地域に介入し続けるが、米国はじめ国際社会の圧力により停戦合意にこぎつける。
 
 プルニエ氏の前著『The Rwanda Crisis』が、ジェノサイド直後の間もない時期に書かれ、虐殺を止めたツチ系RPFの新政権に対し好意的なトーンとなっているのに対し、その後のコンゴ戦争の趨勢を見たうえで書かれた本書では、その主役となったルワンダの責を厳しく批判するトーンとなっている。実際のところジェノサイド末期からコンゴ大戦にかけ、RPF(とその支援を受けた武装勢力)が多くの非人道行為を行ったことは周知の事実である。本書の最終章では、当初はRPFの守護者と見られたプルニエ氏が、そのトーンの変更にともない徐々にルワンダ政府から辛辣な批判を加えられるようになったエピソードが紹介されている。
 
 同氏は、国際社会が果たした役割についても批判的だ。米国はじめ国際社会は、ルワンダのジェノサイドを放置したことを引け目に感じるあまり、ルワンダコンゴ侵攻を容認し、その一方でルワンダの内政(経済社会開発)のために多くの援助を流し込んだ。大戦が拡大し500万人以上とも言われる死者が出たにもかかわらず、国際社会からの支援は、同時期に発生したバルカン紛争などと比べてあまりに小規模にとどまった。同氏は、ここに国際社会のアフリカに対する利害の薄さ・無関心が端的に表れているとする。
 
 今後のアフリカ情勢について、同氏の見方は悲観的だ。冷戦を経て上記のような「アフリカの問題」が顕在化するようになった今、景気回復や国際経済への統合といったプラス要因もあるものの、全体としては不安定な時期が今後も続くだろうと述べる。実際のところ、同氏が論じた曖昧な国境や脆弱な政府、貧困といった構造的な問題は現在も多く残されており、過去数年間でもイスラム原理主義者によるサヘル地域の危機、中央アフリカ共和国南スーダンの内乱など、具体的な紛争の例には事欠かない。大湖地域に目を向けると、東コンゴ地域には引き続き武装勢力が跋扈し、現在進行中のブルンジをはじめ、コンゴ民主共和国ルワンダの大統領選挙と、波乱含みの政治日程が続く。アフリカ諸国自身の頑張りが大前提とはいえ、過去のルワンダコンゴにおける失敗から学ぶなら、国際社会がこの地域の動向に無関心でいないことが何より重要である。

(2009, C. Hurst & Co. (Publishers) Ltd, UK)

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