Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

読売新聞中国取材団 『メガチャイナ 翻弄される世界、内なる矛盾』

 現代中国の膨張と矛盾、その世界各地での影響をルポした読売新聞の連載をまとめた新書。

 現代中国の爆発的なエネルギーについては今更語るまでもないが、本書を読んで改めてほうと思ったエピソード;
中国企業はテロのリスクを承知で、アフガニスタンでも銅山開発を進めている。カブールから南に30キロのロガール州アイナク。2007年の入札でインフラ開発などを混ぜて操業権を獲得。ちなみにアフガニスタンの銅埋蔵量は世界屈指。
・仏ボルドーで進む中国企業によるシャトーの買収が進んでいる。仏国民のワイン消費量は50年前の半分だが、中国ではこの10年間でほぼ倍増。仏では嫌悪感も聞かれるものの、買収されたシャトーの管理人いわく、「中国は救世主」。
・若い中国人の勉強熱はすさまじい。木更津の暁星国際高校では、1994年より優秀な中国人を受入れ。2010年春に過去最高の9人が東大に合格したが、その全員が中国人。米国でも、博士号取得の出身大学別ランキングでは、2006年から3年連続で清華大学北京大学が、米国の大学を差し置いて一位と二位(因みに3位はUCバークレーソウル大学が6位。東大は圏外の425位)。

 さて、別に批判でも何でもないのだが、本書の結論らしきものとしては、巻末で、①中国の多面性と複雑性、②グローバルな視野から捉えることの重要性が述べられているが、現代中国の膨張と矛盾が何に拠っているのか、中国政府は今後どうせねばならないのか、日本や西欧諸国はこのやっかいな大国にどう対処してゆくべきか、一般の読者が知りたがっている肝心の疑問については触れられていない。同様に巻末に「手前味噌ながら、読売新聞の充実した国内外の取材体制があればこそ、多角的な情報を、多様な現場から発信することができたと考えている」とあるが、欧米の研究者の著書(たとえばhttp://blogs.yahoo.co.jp/s061139/33019389.html
)やEconomist、FTのレベルとまでは行かないまでも、ただ表面をなぞるだけで事象の深層を掘り下げなければ、「充実した取材体制」と1000万部の看板が泣くと思うが、どうだろうか。

(2011年、中公新書