Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

湯浅 誠 『反貧困 「すべり台社会」からの脱出』

 
 NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」「反貧困ネットワーク」の事務局長・湯浅氏による近著。
 「ワーキングプア」や「ネットカフェ難民」といった言葉に象徴される現代日本の貧困の現状を明らかにする第1部、そして「反貧困」の概念と取り組みについて書かれた第2部。湯浅氏の豊富な経験にくわえ、様々な統計資料・文献に基づいた分析を通して、日本の「貧困」と「反貧困」の現状が明らかにされます。


1.日本の「貧困」

 本の冒頭に登場する製造業の派遣社員。20万円弱の収入を得ているが、寮費が7万円、光熱費が一律2万円、家具のレンタル代や社会保険料などでその他約5万円がが差し引かれ、手取りはわずか数万円。もちろん娯楽とは無縁の生活。憲法でいうところの「健康で文化的な最低限度の生活」を営んでいる、とはいえない。こうした人の数は近年急速に増えている。
 湯浅氏によれば、日本の貧困を防ぐための雇用、社会保険、公的扶助(生活保護)、の「3つのセーフティネット」はすでに破れ始めている。象徴的なのは、1997~2007年の非正規労働者増加数「574万」という数字。
 世界には清潔な水や充分な食糧、治安と無縁の人々が数千万人、数億人単位で存在する。そうした人々の状況と比べれば「まだまし」という意見もあるそうだが、だからといって日本の貧困問題を「見過ごしてよい」ことには決してならないはず。
 

2.誰もが「紙一重

 湯浅氏は現在の日本を「すべり台社会」と呼んでいる。いちど労働市場非正規労働者として職にあぶれると、雇用、社会保険、公的扶助の3つの「ネット」をあっという間に滑り落ちていく。最後のセーフティネットである生活保護も、役所の「水際作戦」に象徴されるように万全とはいえない。
 正規労働者も、現在のような不況下では安全ではない。自営業者も厳しい。公務員も「政府のスリム化」がうたわれる昨今、今後数十年にわたって「聖域」である保証はない。誰もが「紙一重」といえるのではないだろうか。
 自分も就職氷河期といわれた2006年に何とか就職できたが、そうでなければ今頃アルバイトや派遣労働で食いつなぐ生活をしていたかもしれない。そのときに待っていたのは、この本に描かれている非正規雇用の人々の「貧困」の現実だったかもしれない。とても他人事とは思えない。労働者の誰しもが「貧困」に転落する可能性がある今の日本の状況、素直に「恐ろしい」と思う。


3.個人として何ができるか

 2008年はじめごろから色々考えていますが、今のところの考えは、
①選挙の際に、貧困・雇用問題の意識の高い政党・政治家に投票する。
②行政・NGOを問わず、資金・物資・人手の需要があれば、できる範囲で積極的に個人としての支援をしていく。
昨日は日比谷公園の「年越し派遣村」にホカロンの物資カンパをしてきました。山積みの物資とたくさんのボランティアの方々、熱気あふれる現場の様子を見て、「日本にもまだまだ”溜め”はある」と思いました。
 が、やはり「労働関連法規の改正や景気回復抜きには抜本的な解決はない」との思いも改めて強くしました。
 また、限られた労働需要を可能な限り多くの労働者に分配するワークシェアリングの概念・制度をもっと普及させることも必要と思います。一国全体の経済成長(あるいは消費者にとっての高い効用の維持)と完全雇用の達成は、両立可能のはず。


 湯浅氏によれば、反貧困の取り組みは「当事者のエンパワーメント」と「社会資源の充実」の両輪があって初めて成り立つもの。
 2009年の日本社会の課題は、何よりも「反貧困」であると思います。

                        (岩波新書、2008年4月発行)


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