Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

三ツ谷 誠 『少年ジャンプ資本主義』

①本の紹介
 かつて週間誌売上最多記録(約650万部)を記録したマンガ雑誌・「少年ジャンプ」。その掲載作品を、戦後日本経済の移ろいと重ね合わせて論考する。著者は企業・経済動態コラムニストの三ツ谷氏。
 
②印象的なパート
 少年ジャンプが創刊以来採用し続けている3つのテーマは「友情、努力、勝利」。このうちどれかが必ず織り込まれているマンガのみを掲載するのがジャンプの方針で、「この三要素は、高度資本主義世界を生き抜く上で、とても重要なキーワード」と三ツ谷氏はいう。伝統的な共同体が瓦解しともすれば個人が漂流してしまう資本主義経済下において、志を同じくする仲間と連帯し、たゆまず努力し、勝利のためにはあきらめない精神が、ジャンプ世代の人々にとってはいつも求められてきた。三ツ谷氏は、「少年ジャンプが少年ジャンプで育った戦後日本の少年たちに資本主義世界で生き抜いていく方法をすべて教えてくれたのだ」、と断言する。 
 また、2000年代の傑作『ONE PIECE』を分析する章では、圧倒的権力で世界を支配する「世界政府」に立ち向かう麦わら一味を、マイケル・ハートアントニオ・ネグリの『<帝国>』で語られる巨大な世界資本主義勢力<帝国>に対抗する「連帯」の勢力になぞらえ、麦わら一味が「<帝国>に対峙するための砦としての『友情』、仲間の論理を強烈に提示している」、とする。また、『男一匹ガキ大将』の何が何でも親分についていく、というトーンではなく、個々のクルーが各々の野望を携えながらも船長のルフィを海賊王にするために一味を形成している点に、個々の意思を第一としつつも緩やかな絆で結ばれる現代版の「連帯」のあり方を読み取っている。

③読後の感想
 とある評論家は、ジャンプ世代を育ててきたマンガ文化を「物事を深く考えない人々を生み出し続けてきた」と批判するが、そうした人は、メッセージを絵の描写を伴った明確なイメージとして伝える漫画という文化の功罪のうち「罪」の部分しか見ていない。玉石混交あれど、一人の人間の人生観に影響を与えるような素晴らしい作品もある、と思って、このブログでも10冊に1冊くらいの割合で、マンガを紹介している(実際、それくらいの量は読んでいるのだけど)。
 もっとも、非正規雇用者が3000万人を超えたという現実に対し、「ドラゴンボール」(『DRAGON BALL』に出てくる、あの球)を株券になぞらえ、「もし仮にその非正規雇用者が1万円だけ拠出して3000億円のファンドを確保し、雇用を守ること、雇用を創出することを株主として株式を買い占めた企業の経営陣に強く訴えるなら、もともと日本人として他者に優しくありたいと願う日本の経営者たちは、わが意を得たりと雇用を守り始める可能性がある」と論ずるなど、本書の中には少々非現実的に映る箇所もあるが。それでも、ジャンプ世代は「ああ、俺(わたし)にとっての『ジャンプ』って何だっけ」、と程よく肩の力を抜いて読むのが吉。

                             (2009年9月発行、NTT出版


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