Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

羽海野 チカ 『ハチミツとクローバー』

①本の紹介
 恋愛あり、コメディあり、自分探しあり、美大に通う5人の男女が織り成す群像劇。アニメも映画にもなった、押しも押されぬ2000年代の大ヒット・コミック。

②印象に残ったパート
 第6巻、真山がなかなか脱ぎ捨てられない「青春スーツ」。設計事務所の先輩・野宮が真山を評して、「オレが苦労して何年もかけて脱ぎ捨ててきたもう見たくない恥ずかしいモノ」を「全部ひっさげて目の前をうろうろしやがる」。ちなみに「スーツ」は、思い込みや間違った自信、みれん、情けなさ、熱血、嫉妬、その他もろもろからできている 笑
 第9巻、大怪我をした片思いの相手・はぐを前にして、主人公の竹本は、ふと真山の何気ない一言を思い出す「もし好きな女に何かあったときさ、『何も考えないでしばらく休め』って言えるくらいは(金を)持ってたいんだよね」。貯金も将来の見通しも立っていない竹本は、そこで始めて自分の無力さを思い知る。
 第10巻、結局はぐが選んだのは、竹本でも森田でもなく、一番近くで彼女の創作活動を支えてきた美大の教員・花本だった。翌朝、竹本が森田に思わず「はぐちゃんが選んだのが先生でホントに良かった、どうせとられるんなら金とか才能じゃなくてやさしさとか誠実さにとられた方が、ぜんぜん気が楽だ」と言い放つ。森田の頭にフラッシュバックするセリフ「才能。そーやってヒトを勝手に好いたり憎んだり恨んだり・・・あげくに黙って離れていく。虚しかった、もうやめにしたかった、何もかも。だから道連れにしようとした」「オレは彼女に甘えたんだ、あんなに弱ってる彼女に・・・最悪だ。」はじめて森田の本心が正面から明かされ、物語は、甘く切ない「ハチミツとクローバー」に彩られたエンディングへと向かう。
 
③読後の感想
 「自分探し3級」の悩める主人公・竹本、才能あふれる奇才・森田、「青春スーツ」をまとった一見常識人の真山、ひたすら絵に没頭するヒロイン・はぐ、真山に一途に思いを寄せる直情型の山田。きっと、読む人は誰もが、登場人物の誰かに自分を投影して、「あーオレ(わたし)だったらどうするだろう」、と思わず現実世界に置き換えて読んでしまうマンガ。だからこそ、大ヒットしたのだと思う。ちなみに自分は、7割竹本、3割真山、と自己分析 笑。
 絵もかわいいし、舞台設定やガジェットも凝っていて、全10巻のコミックスはまるで小さな箱庭のよう。職場の同僚に借りて読んだものの、思わずずっと手許においておきたくなるような、そんなマンガ。

                          (集英社、全10巻、2006年完結)


https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/F/Foomin/20190829/20190829194516.jpg