Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

椎名 軽穂 『君に届け』

 陰気な見かけだが頑張り屋の爽子と、爽やかで明るいが奥手な風早が、不器用ながらも互いの気持ちを通わせて行く様子を描いた、北海道の高校を舞台にした恋愛コミック。

 しばらく離れている間に日本では大ヒットになって映画化までされているらしく、あまりに同僚から勧められるので、借りて読んでみた。暗い見かけのせいで「貞子」と呼ばれ、クラスに馴染めなかった爽子が、誰にでも爽やかに接する風早と出会ったことをきっかけとして、クラスメートと徐々に打ち解けていくのが序盤。後に爽子にとってかけがえのない親友となる千鶴とあやねが、互いの誤解を解いてストレートに友情を確認し合う2巻でまずホロリ。恋のライバルが現れたり、爽子と風早の一言一句がすれ違ったりするその後のくだりは「長い・・」と思ってしまったが、二人が告白して互いの気持ちを確かめ合う10巻あたり(「(この気持ちが)君に届け」というセリフが彼らから発せられるのがこの辺)まで行き着いた後に読み返してみると、何気ないシーンにもそれぞれ意味があったことが分かり、二人の恋が成就した喜びも改めて倍になる。

 爽子と風早、二人の主人公はどうしようもなく奥手で、相手のことを案じるばかりにいつも空回りばかりしていて、読んでいて背中がムズムズしてしまうようなシーンも多々あるのだが、それでも彼らにかなり感情移入して、時間を忘れて先へ先へとページをめくってしまう。これだけ多くの読者に読まれるのも、たぶん誰しもが若い頃に爽子や風早と似たような感情を味わうなり、似たような経験をしたことがあって、彼らに「そうそう、そうだよね」「分かってるけどなかなか言えないよね!」などとついつい共感してしまうからだと思う。

 最初はただのちょい役か?とも思われた千鶴とあやねも、巻を追うごとにキャラの造形が深まり、またそれぞれに大事な恋のパートナーも現れて、いまや物語になくてはならない存在になっている。個人的にはとくに、器用なように見えて不器用、クールでおせっかいなあやねの立ち位置が絶妙で、また何となくリアルな自分の立ち位置にも重なるようで、ついつい必要以上に感情移入して見てしまう。せつない役回りの多かったあやねも、17巻で彼女のことをストレートに気遣ってくれる男子とようやく付き合うことに。それまで自分で壁を作ることの多かった彼女に、どういう心境の変化が起こるのか、最新巻が楽しみ。

集英社、2013年8月現在19巻まで刊行)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/F/Foomin/20190829/20190829194547.jpg