Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

加賀 隆一 編著 『プロジェクトファイナンスの実務』

 国際協力銀行のプロジェクトファイナンス部長(当時)である加賀氏を中心に、実際に同業務に携わる実務者たちが、その概要と実務上のポイントについて解説した本。
  
 当方は実際にプロジェクトファイナンスの組成や、そうしたプロジェクトに直接関わったことはまだないが、職業柄、開発途上国の大型インフラプロジェクトについて良く耳にするし、そうしたプロジェクトとファイナンスの仕組みについては一通り理解しておく必要がある。ということで手に取ってみたのが本書だが、プロジェクトファイナンスの基礎知識から、通り一遍の机上論ではない、実務者の視点からのポイントまで丁寧に解説されていて、とても参考になった。
 
 著者らの定義に因れば、プロジェクトファイナンスとは「①特定されたプロジェクトが対象で、原則として②主たる返済原資が当該プロジェクトのキャッシュフローに依拠し、かつ③担保が当該プロジェクトの資産に限定されるファイナンス」のことである。通常、政府や企業(親会社)が自己の信用に基づいて資金調達を行うケースとは異なり、プロジェクトの将来キャッシュフローを信用してファイナンスが提供されることになる。但し実際には、親会社がスポンサーとして一定の責任や義務を負う「リミッテド・リコース(限定的に責任や義務がスポンサーに遡及する)・ファイナンス」が、プロジェクトファイナンス案件の大多数を占めているという。
 
 本書では、具体的には、プロジェクトファイナンスの主要なステークホルダー、実務上のおおまかな流れ、主要対象セクター(電力、非鉄鉱物資源、LNGPFI/PPP)の動向、プロジェクトファイナンス略史、想定されるリスクの種類とコントロールの仕方、事業性審査にあたっての主要項目(技術評価やキャッシュフロー分析)、契約書等ドキュメンテーションの詳細、関連する金融商品(メザニンファイナンス優先株式ないし劣後ローン)、ミニパームローン、プロジェクトボンド、モノライン保険等)、イスラム金融の概要とプロジェクトファイナンスとの接点、プロジェクトファイナンスを扱う世界の主な公的金融機関、について紹介されている。なかでもリスクコントロールの章には具体的なケーススタディが5つ付されており、これまでプロジェクトファイナンスに馴染みの薄かった方でも、どのようなステークホルダーがいるのか、主要なリスクにはどのようなものがありどう対処できるのか、具体的な案件のイメージをもって大まかな絵姿を理解できる。
 
 本書によれば、プロジェクトファイナンスの概念自体は決して新しいものではない(イギリスの東インド会社による資金調達、より古くは古代ローマギリシャの海運事業ファイナンスにも通ずるかもしれない)。2000年代以降の現代では、とくに途上国においてインフラ・資源などの開発需要が台頭、それを受けて新たなファイナンスの出し手が続々と現れており、プロジェクトファイナンス市場の流動性は「高まるばかり」だという。世界的な金あまりの時代にあって、少しでも高いリターンを求めて世界中の投資家や金融機関が稼げそうなプロジェクトに参加するチャンスを狙っている、というのもありそうである。開発業界に身をおく者としては、たとえば依然として莫大なニーズのあるインフラ開発に少しでも多くの資金と技術を呼び込む上で、プロジェクトファイナンス市場が厚みを増して行くこと自体は単純に歓迎すべきと思うが、他方で案件のホスト国政府(特に途上国)にこれだけ複雑なファイナンスを制御できるだけの人材の厚みがあるか、またこれだけの借手市場、かつ今後は難しい案件が残って行くなかで公的金融機関はじめレンダーの側が今後も的確にリスクを把握・制御し続けられるか、といったところが気にはかかる。

(きんざい、2007年)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/F/Foomin/20190829/20190829193924.jpg