Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

本山 美彦 ほか 『儲かれば、それでいいのか』

 2005年1月に自分の働いていたNGO(JACSES)で主催されたシンポジウムのレコードを下敷きに、同シンポジウムのパネリストからの書き下ろし原稿を交えたエッセイ集。タイトルどおり、グローバリゼーションと貿易自由化、多国籍企業と大資本の横暴、地域経済や農村・地域コミュニティの危機に警鐘を鳴らす本。
 このブログでも紹介した『金融権力』の著者・本山美彦氏や『下流社会』の三浦展氏、食と農の見地から情報発信を続ける山下惣一氏、古田睦美氏、JACSESの佐久間智子氏が、それぞれ各章を執筆しています。
 この本で紹介されているテーマやトピック、今となってはすでに社会の各方面から問題提起のなされている主張と重複する部分もありますが、少なくともこの本の下敷きとなったシンポジウムが開催された2005年1月はとても新鮮にシンポジウムを聞いたのを覚えています。久しぶりに本棚の奥から見つけて読み返してみたのですが、2008年現在の今読み返してみてもなお新しい発見にあふれていました。


1.グローバリゼーションと大資本は行き過ぎたか

 たとえば全世界で160万人を雇用するアメリカの小売業大資本、ウォルマート雇用保険料を負担せずに人件費を最小限にとどめ、生産者からの仕入れ値をスケールメリットのもと最小限に抑え、高利益をたたき出す。ただし出店先の個人商店や中小小売業、地元雇用が破壊されることから、アメリカのある地方、たとえばロサンゼルス近くのイングルウッド市では2004年住民投票により出店を拒否されている。
 また山下惣一氏は、WTO発足後の10年間を「世界中の農民が農業で食えなくなった」と表現。世界の食糧需給・価格決定メカニズムを握っているのは、一握りの欧米大資本。生産主体は「価格の高いところから低いところに流れる」。日本においても大農優遇、零細農に冷たい政策がまかり通る。先進国や新興国、途上国の零細農民や農村は、疲弊の一途をたどっている。
 

2.ライフスタイルはどう変われば良いのか
 
 本の中であげられているのは、「地産・地消」「スロー・フード」といったきわめてシンプルな概念。ただ、たとえば自分の生活を振り返ってみると、残業の結果、夜中に家の最寄り駅に帰ってきても夕食のために開いている店は「マクドナルド」や「松屋」や「富士そば」、コンビニだけで、契約農家からの直販品を売る自然食品店や定食屋はすでに閉店。出勤時の朝も同じ。こういった概念を都市に一人で暮らすサラリーマンが実践するのは難しい、とつねづね思わされます。
 ただし少なくとも「健康と環境にやさしい」ライフスタイルを目指して、玄米・野菜・魚中心の食生活をできるがけ心がけたり、「早寝早起き運動」生活を試みるようにはしています・・・。
 


 昔、大学時代に国際関係論の教授が「現代には2種類のグローバリゼーションがある。市場の力に引っ張られるファスト・トラックの経済グローバリゼーション。もうひとつは、その急進な動きに抗う市民を中心とした緩やかな反グローバル化の連帯の試み。」と言っていたのを思い出します。
 具体的なキーワードをあげれば、リージョナリズム、「地産・地消」ライフスタイル、生産者と消費者との連帯、労働組合・労働者同士の連帯の復活、社会や福祉、環境への配慮。
 「気づき」を持った各人が何ができるか。「気づいていない」人たちにどう気づかせられるか。王道はなく、ただ各人が地道に声を上げ、小さな活動を積み重ねていくことしかないのだと思います。
 最後に、佐久間氏のエッセイの中でもっとも印象に残った文章を↓
 「巨大化した現代社会を読み解くのは難しい。しかし、それぞれの事象で『結局、誰が一番得をしていて、誰が一番困っているのか』という本質を押さえられれば、真実は意外なほど単純であることも多い。」
                                   (コモンズ、2006年4月発行)


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