Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

ミュリエル・ジョリヴェ 『移民と現代フランス フランスは「住めば都」か』

 社会学者のジョリヴェ氏が、フランスにおける移民の実状と苦悩を、多くのインタビューや取材をもとに描き出した本。

 数々のインタビューを終えて、ジョリヴェ氏は、仏国内の移民への批判に対し、「移民はフランス人のパンをむさぼり食ってなどいない」「闇で低賃金で搾取される人たちがいる・・・結局フランスは、人権の国という評判を利用しているのではないだろうか」と述べる。正規の仕事に就けず、解雇の不安から劣悪な環境でも雇用主に文句を言えず、困窮して身体・精神上の病気に陥ったルーマニア人。法律上の滞在許可申請手続きが遅々として進まず、月に3000フラン(約6万円)稼ぐために1日16時間の労働に耐え(仏労働法では週労働時間は35時間と規定されている)、警察に幾度も捕まって暴力を受け、絶望を深める中国人。前者はチャウシェスク政権、後者は文化大革命から逃れてきた政治難民である。慢性的な貧困にあえぐアフリカ地域からも、家族の生計を背負って多くの経済難民がやってきており(http://blogs.yahoo.co.jp/s061139/32728506.html
)、彼らもまた同様の困難に直面しているという。
 宗教・文化面の問題も深刻である。マグレブ諸国などのイスラム圏からやってくる移民について、公共空間におけるスカーフ着用の問題はもとより、思春期に両親から外での交遊を一切認められず過度な束縛の結果精神的に壊れてしまった少女、一夫多妻制を認めないフランス法により法的地位をもてない第二夫人など、悲惨な実例が数多く紹介されている。
 
 左派のオランド政権は移民の受け入れ政策について前政権より若干軟化の方針を見せているようだが、本書が指摘するように、周辺国の経済社会が不安定である限り、人権を標榜するフランスへの難民流入はやまないだろう。こうした国々に対する経済援助も、過去50年間、少なくともアフリカ地域においては殆ど成果を挙げてこなかった。滞在許可の申請手続きは極めて複雑・難解であり、窓口担当官の意向に左右される場面も少なくない。ただでさえ雇用が厳しい中、移民に対するフランス人の視線は年々厳しくなっており、分厚い社会保障で守られた既存の正規雇用者との経済社会格差は拡がるばかりである。
 日本に住んでいると中々理解しづらい部分もあるが、移民の問題を個々の当事者の視点で詳しく紹介してくれる本書は、長い移民受け入れの歴史を持つフランスでさえ彼らとの同化にここまで苦しんでいる現状を、鮮明に教えてくれる。

鳥取 絹子 訳、集英社新書、2003年)

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