Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

平野 千果子 『フランス植民地主義の歴史 奴隷制廃止から植民地帝国の崩壊まで』

 フランスにおける奴隷制の廃止と植民地主義の推進が、「文明化」の名の下に同時に行われた矛盾について論じた本。 

 平野氏によれば、帝国主義時代のフランスにおける「文明化」という言葉は、市民革命の理念の伝播であり、様々な思想的意味合いを許容するものであったために、強力な植民地主義イデオロギーとして機能した、という。たとえ同時期に本国で奴隷制の廃止が進行していたとしても。「革命の理念と植民地主義が、実はフランス人の意識において矛盾していなかったという点。そして掲げた理念の『普遍性』ゆえに、フランスに侵略された側もこの理念に容易に共鳴し得たという点。これらのことが、フランス植民地主義の『免罪符』になり、ひいてはフランスが自身の植民地主義の過去を問い直す、大きな壁になっているのではないだろうか」、と述べている。もちろんこうした記述の裏には、(日本と同様に)フランスは未だ植民地時代の清算を終えていない、という平野氏の問題意識がある。

 台湾や朝鮮半島における日本の植民地経営も、現地で一定のインフラ水準引き上げをもたらすなど、必ずしも「負」の側面ばかりではなかった、とする見方もある。歴史認識の問題は、どの国に置いても極めて難しい問題であり、そう簡単に答えは出ない。平野氏が、冒頭の問題意識を突き詰めるのであれば、たとえば隣国ドイツの経験などとも照らして、フランスの「清算」のためには今後どのような方策があり得るのか、まで突き詰められていると、なお良かったと思う。

(2002年、人文書院

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