Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

F・X・ヴェルシャヴ 『フランサフリック アフリカを食いものにするフランス』

 フランスとアフリカ諸国の裏の関係「フランサフリック」について、その経緯とメカニズムを克明に描き出した、フランスの市民活動家による告発の本。

 フランスとアフリカ各国の強いつながりの一つが軍事協定/軍事協力協定であり(http://blogs.yahoo.co.jp/s061139/34340967.html)
、本書によれば、例えばカメルーンとの協定は、その第一条で「カメルーン国軍の編成、装備、訓練を行う」任を、フランスに委ねているという。またフランス・フラン(現ユーロ)と固定ペッグされたセーファ・フラン通貨圏の国々は、通貨金融政策の権限を事実上持っていない。中国からの貿易・投資の活発化に伴い、相対的なフランスの経済的影響力が衰えているとはいえ、国家の根幹に直結するこれら2つの装置を見ても、仏語圏アフリカとフランスの結びつきは、切っても切り離せないものであることが分かる。
 本書の第2部は、カメルーントーゴルワンダコンゴ民主共和国ブルキナファソといった国々に対して、フランサフリックの面々(エリゼ宮諜報機関、軍、関連企業、そしてアフリカの独裁者たち)が、いかに仏語圏アフリカ諸国に恣意的な軍事・政治介入を繰り返してきたか、詳細に描いている。フランスの意に沿わない政権を転覆する一方、意のままになる指導者は徹底的に擁護する。アングロ・サクソン同盟への対抗軸を作る、あるいは経済利権を確保すると言った観点から、反アパルトヘイト活動家排除への関与、ビアフラ戦争への介入、チャールズ・テイラーの支援など、自らの旧植民地以外の国々においても黒い工作を繰り返した。1990年代初頭のルワンダ紛争においても、フランスはフツ側への軍事支援を継続していたという。
 こうした関係が一部の人々にもたらす利益の大きさは特筆すべきものである。本書は、アフリカ側の指導者、フランス側の指導者、そしてときにフランスの民間企業が、フランスの開発援助から利益を得るメカニズムを明らかにしている。不透明な意思決定と不十分な監督体制のもと供与される各種援助資金は、アフリカ側の独裁者のふところへ、その一部はフランス側政党へのキックバックに充てられる。エルフ社(現・トタル社)などフランスのグローバル企業も、案件コストを水増しし、資金を不正なルートに乗せる上で重要な役割を果たしたという。
 こうした恣意的な介入の背景についても、本書で触れられている。ド・ゴールをはじめとする戦後の指導者は、「アメリカとアメリカの同盟者であるイギリスに対抗してフランスの独立を確保するという困難な戦略」の遂行に迫られた。その答えが、大陸ヨーロッパにおけるドイツとの経済統合であり、西側諸国の中でも英米アングロ・サクソン)とは一線を画した独自外交であり、またアフリカ諸国における自らの基盤拡大であった。
 
 この本を読むと、仏語圏アフリカ諸国の多くが、独立後半世紀を経て今もなお、局所的に続く紛争、クーデターで安定しない政治、機能しない行政府、莫大な対外債務、慢性的な食糧不足といった、数多くの災いの渦中にある大きな理由は、まさに旧宗主国のフランスにある、とさえ思える。先日、フランスのアフリカ専門誌『ジューン・アフリク』で、英語圏アフリカに比べてなぜ仏語圏アフリカの発展が立ち遅れているか、複数の識者が意見を述べる特集があり、そこでは、長年に渡る紛争、地域統合の不在、インフラ整備の遅れ、などが挙げられていた。だが本書を読めば、仏語圏アフリカの苦境は、まさにフランス(の一部)が、自らの国益や私益に沿って仏語圏アフリカ諸国の政治とガバナンスをいいように歪めてきた結果、と言えなくもない。もしかすると、フランス語圏アフリカの浮揚を目指す上では、中国や日本といった新たな第三者のプレゼンスを通じて、こうした旧宗主国のくびきを相対的に弱めていくことが必要では、とすら思わされる。

 ちなみに本書は、フランスやサブサハラ・アフリカ諸国の歴史、政治・経済に関する予備知識がないと、読み進めるのはかなりつらい。幸い、訳者によって詳細な訳注が付されているので、時間はかかるが、本文と訳注を行ったり来たりしながら読み進ることができる。

(邦訳:大野 英士、高橋 武智 訳、緑風出版、2003年
 原著: "La Françafrique: Le plus long scandal de la République" 1998.)

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