Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

小林 由美 『超・格差社会アメリカの真実』

 突然ですがマイケル・ムーアの「Sicko」を見てアメリカの医療保険制度があまりにひどいのを改めて感じ入り、この社会についてもっと知りたいと思って手に取ったのがこの本。
 旧長銀からスタンフォード大、1982年当時日本人女性初のウォール街証券アナリスト、現在経営コンサルタントの小林さんが、アメリカの経済・社会、そして格差について分析した本です。統計データや小林さん自身の在米経験を通じて、経済格差の問題のみならず、建国の歴史や外交方針、教育など社会保障政策にいたるまで、アメリカ社会の姿が鮮明に描き出されます。


・なぜ富の偏在・「超」格差が起こるのか?
⇒大統領選や議員選挙で勝つための武器は選挙資金。アメリカの金融資産の6割が全人口の1%、9割が10%に集中している。ホワイトハウスやキャピトル・ヒルが、税制や金融政策決定の際に社会のどの層を見るか、は火を見るより明らか。


アメリカの格差の原点はどこか?
⇒18世紀の建国当時にさかのぼる。ヨーロッパからの資本とユダヤ人バンカーに支えられた東部エスタブリッシュメントが、現在に至るまでアメリカの上流階級をなしている。また1776年にイギリスで発刊されたアダムスミスの『国富論』が、①個人の物質欲の追求が社会益につながること、②レッセフェール(自由放任主義)-自由競争と市場の「見えざる手」の重要性-を主張したことも大きい。すでに市民社会が根付きつつあったイギリスと違い、移民社会で建国当時のアメリカに行き過ぎたレッセフェール・資本集積を引き止める社会秩序はなかった。


・それでもなぜそれでも人々は怒らないのか?
⇒ヨーロッパではHaving MoneyではなくMaking Moneyは悪いことだった。アメリカではその逆、Maing Moneyに何よりも重きが置かれる。社会のモビリティも高い。He has a lot of money. He must be dong something right.が本気で信じられている。移民国家であることのメンタリティによる影響も大きい。新しいことにチャレンジする創造性を支える仕組み、スタートアップの容易さは、シリコンバレーに特筆されるように、他国に比べて際立ったものがある。


・日本社会が汲み取れる教訓はあるか?
⇒日本の格差は、職業選択と労働報酬の問題。生涯教育や流動性の高い雇用慣行・法体系の整備によって解決できるはず。他方、米国のそれは数百年にわたる富の偏在とあまりにお粗末な公共基礎教育が原因であり、容易には解決しない。格差は所与のものとみなされ、そもそも問題として的確に把握されていない可能性がある。

 
 1700円の割には、かなり読み応えがある本です。アメリカは日本にとって近くて遠い国のひとつで、またその社会の多様性のゆえに、アメリカについて「深く知っている」人は、実はなかなかいないのでしょうか。自分もそのひとりで、この日本語の本はとても参考になりました。アメリカ社会の深層に迫りたい方、ぜひおススメします。
 しかし、アメリカという国は本当にどういう方向にこれから進んでいくのでしょうか。オバマが勝つにせよマケインが勝つにせよ、アフガンやイラクスーダンでの軍事的役割はきちんと果たしてもらわないと困るし、他方で国内における国民皆保険制度を含む社会保障政策、行き過ぎた資本市場・ウォール街への抑止・規制監督も必要。この8年間の間にブッシュ政権がワシントンのロビイストやニューヨークのウォール街の言いなりになってきたツケは、あまりにも重いものがあります。

                                    (日経BP社、2006年9月発行)


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