Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

中谷 巌 『資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言』

 一橋大学名誉教授、小泉構造化改革のブレーンとして知られた中谷氏による「懺悔の書」。同氏は、若き日にハーバード大学に留学、「古きよきアメリカ」の文化と気風に影響を受け、帰国後は日本の構造改革の理論的支柱として活躍。
 この本は、資本主義の行き過ぎの弊害と対策について、「自戒」を込めてかかれた本。同氏の専門である経済のみならず、歴史・文化・宗教などの側面にも触れつつ、これからの日本が進むべき道について論じるエッセイとなっています。
 

1.日本が採るべき方向性
 
 中谷氏は、「環境分野での貢献」と言い切る。「日本人の自然観は共生の思想に基づいている。これは西洋社会の征服の思想とは明確に一線を画す思想であり、日本的な自然観への転換がなければ、地球環境問題の抜本的解決はないというのが私の見立てである」。
 ただ、国内の二酸化炭素排出削減目標達成も不透明、東欧諸国から大金をはたいて排出権を買っている日本は、少なくとも現時点においては、そもそもの説得力を欠く。オバマ政権もグリーン・ニューディールを掲げている。新エネルギー・省エネルギー技術への更なる投資、環境税制の導入、発展途上国への技術移転。単なる抽象論にとどまらず、実際の人材・資金投入の規模を倍加させ、政策の結果を挙げていく必要がある。


2.「懺悔」の内容

 アメリカ留学当時に見落としていた点として、中谷氏は以下の2点を挙げる。まず、「日本とアメリカでは国の成り立ちも大きく異なり、アメリカ流経済学をそのまま日本に適用しても、それで日本人が幸せになれる保証などどこにもないとい当たり前の事実」。そして「アメリカの豊かな社会を支えていたのは、実は自由な市場活動などではなく、偉大な社会建設をうたい、政府の役割を重視していた新古典派総合にもとづく経済政策であった・・・私はこうした現実を見過ごして、レーガン政権以降主流になる新自由主義こそが、昔からアメリカ経済の中心であったかのように錯覚してしまった」。
 こうまで率直に自省されると、こちらが批判することも難しくなる。部分的な影響であったにせよ、このような「誤解」のもと日本社会経済の「構造改革」が論じられ、結果、日本社会の姿が文字通り変わったという事実に、恐ろしさを感じる。


3.モンスターがもたらした「3つの傷」

 中谷氏は、グローバル資本主義を「モンスター」と呼び、その弊害を以下の3点にまとめている。①世界経済の不安定化、②所得格差の拡大、③地球環境破壊。同氏の主張について詳細は述べないが、いずれも資本主義の負の側面として永年捉えられてきた問題であり、それらの対抗策としての政府と政策の役割の重要性については、ここで繰り返すまでもない。
 人類が歴史上初めて経験する、ITの普及とソ連の崩壊がもたらした真の意味での「グローバル」資本主義は、今たしかに転換点を迎えている。世界規模での金融機関監督・セーフティネットの構築、途上国を巻き込むかたちでの環境対策と貧困撲滅。アジェンダ(議題)は既に出揃っている。

                    (2008年12月発行、集英社


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