Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

日本経済新聞社 編 『実録・世界金融危機』

 日本経済新聞で2008年12月に掲載された特集をベースに大幅に加筆修正された、現行の世界金融危機についての検証本。構成は少々粗いですが、危機の遠因と引き金、米国政府の対応策などについてコンパクトにまとめた、日経ならではの文庫本。危機の全体像を手早く掴みたい方にお勧めです。359ページ。


1.なぜ歴史的危機に陥ったのか

 本書の「まえがき」で、早くもその答えが記されている。
 「最大の理由は、金融商品の信頼性が揺らいだこと」。複雑に組成された証券化商品。サブプライムローンの焦げ付きを発端に、本来は安全な他の金融商品も敬遠されるようになり、その価値がどんどん下がり、証券会社・銀行・機関投資家など金融の担い手は保有資産の評価損計上を余儀なくされる。銀行の経営悪化に伴い短期金融市場も麻痺、各国の中央銀行がドルの供給に乗り出す。株式市場からも資金が消え、銀行も融資に慎重になる。消費は落ち込み、危機の影響は一般企業や家計にも及ぶ。アイスランドなど急激に資金が逃げた国々には、デフォルト危機が待っていた。
 主要国は財政・金融の両面から危機脱出を目指すも、いまだ出口は見えていない。世銀やIMFの予測によれば、2009年の世界経済はマイナス成長となる見通しである。


2.リーマンブラザーズとAIGとの境界線

 危機の震源は、2008年9月のウォールストリート。リーマンブラザーズの破綻は、全世界の主要紙のヘッドラインを飾った。
 リーマンブラザーズの危機の渦中、当時の米国ポールソン財務長官は、同社の経営層や株主、投資家らのモラルハザードを恐れ、あくまで民間による解決を模索したものの、挫折。結局同社は破綻に追い込まれた。しかしそのわずか1日後、株の空売りから一気に資金調達に行き詰った保険最大手AIGに対し、公的資金注入を決断せざるをえないことになる。
 AIGは、金融機関や機関投資家に対して企業の焦げ付きリスクを肩代わりするCDS(Credit Default Swap)と呼ばれるデリバティブ商品を大量に販売していた。AIGの格付けが下がれば、取引相手に信用を補完するために現金を担保として差し出す仕組み。本業の生保・損保が健全であるにもにも関わらず、予想を超えた株価急落の連鎖が、同社の資金繰りを一気に行き詰まらせた。同社の顧客は世界に散らばっており、巨大金融機関の破綻危機を目の前にして、米金融当局に躊躇する時間はなかった。
 しかしこの金融当局の対応の違いが、市場関係者の疑念を呼び、信用収縮はさらに深刻化した。またAIGの救済後、米国の金融機関は、なりふり構わず公的資金を呼び込むようになる。


3.分岐点は2002年にあった

 今回の危機をきっかけとして、その評価が急落した前FRB議長・グリーンスパン氏。しかし本書によれば、同氏は、2002年の段階で、住宅バブルの可能性を予測していたという。しかし当時は、同氏自身が著書『波乱の時代』の中で語る「世界的なディスインフレ圧力」によって、デフレの脅威が眼前に迫っていた。同氏は結局、「バブルよりデフレ」の道を選び、信用市場の無秩序な拡大を放置した。
 本書には次のように書かれている。「日欧がデフレ懸念から曲がりなりにも脱出できたのは、住宅バブルで信用が膨張した米国を介して大量のリスクマネーが還流してきたからだという事実は否定できない。」
 しかし、もし2002年の時点で、住宅・住宅ローン市場の過熱を抑える方策をFRBが採っていれば・・・。歴史に「if」はないが、おそらく現在のような「100年に1度の危機」までには発展しなかったのではないか。そんな思いを拭い去ることができない。

(2009年2月発行、日経ビジネス人文庫



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