Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

原 洋之介 『開発経済論』

 東大農学部出身で、以降アジア地域をメインに農業経済・開発経済の研究を続けてこられた東大教授・原先生による開発経済学の入門書。家の本棚に眠っていたものを読了。
 既に確立した学問領域として成り立っているミクロ経済学マクロ経済学と違い、研究者によって扱う課題や取り上げる経済理論に若干差異がみられる開発経済学の教科書らしく、この本でも実にさまざまなトピックがカバーされており、それぞれの章にめいっぱい数式・グラフや過去の実証研究の成果がちりばめられていることから、(自分も含め)初心者には少々読みづらい構成になっているかもしれません。本じたいは238ページとそんなに厚くはないのですが。
 それでも今回読んでみて、自分のなかでの幾つかの疑問に大まかながら得た答えがいくつか↓


開発経済学の中心課題は?
⇒「政府の失敗」とともに「市場の失敗」或いはそもそも「市場そのものの未発達」が、先進国経済において通用するミクロ・マクロ経済学の理論の前段階として十分に議論されるべき。原さんは、開発経済学の課題とは「市場の失敗を正確に理解し、それに基づいて経済パフォーマンスを向上させる政策指針を考察すること」と定義します。
 具体的には、産業化政策、貧困削減・解消、初等教育などの社会保障政策、環境政策、などが含まれます。


開発経済学の創成期の中心思想は?
⇒1950年代から60年代:ヌルクセ「Balanced Growth Strategy」、ローゼンシュタイン=ロゼン 「Big-push Strategy」、ハーシュマン「Unbalanced Growth Strategy」(効果の高い特定の産業分野に投資を集中させ政策的な不均衡をつくり、その誘発力を利用する)、いずれも輸入代替工業化を志向。
 1970年代以降:輸出志向型戦略をとった東アジアの急成長を受け、開発経済学においても市場を最大限利用しようとする新古典学派が台頭。ワシントン・コンセンサスの形成に寄与。


現代開発経済学の課題は?
⇒ワシントン・コンセンサスの失敗、グローバリゼーションのますますの進展を踏まえて、各国の多様な歴史・社会・経済システムを踏まえ比較制度分析にベースをおいた「多様な経済制度の共存」を説きます。具体的には、経済取引の制度をグローバルな規模で画一化させようとするウォール街に象徴される勢力に伍する、短期資本移動の制限を含むグローバル金融の制度・枠組作りや、アジア通貨基金など地域単位でのセーフティネットの取り組みなど。


 最後に、経済学・開発学の研究者・開発の実務者にとっては、巻末の参考文献が、今後の勉強のために更に有益な手がかりになるはずです。

                                   (岩波書店、第2版2002年発行)


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