Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

池本 修一ほか 編著 『グローバリゼーションと体制移行の経済学』

 中東欧や中央アジアコーカサスといった旧社会主義諸国の体制移行プロセスについて、グローバル化する世界経済とのかかわりのなかで実証的な分析をおこなった15名の移行経済学研究者の方々による論文集。

 仕事がら体制移行国の経済発展やグローバリゼーションについても考えさせられることが多いのですが、年々変化のスピードは速くなる一方。ソ連崩壊からまだ17年ですが、各国の経済や社会の様相は驚くほどに変化・多様化してきています。
 おりしもウクライナハンガリーといった旧ソ連圏の金融危機の情報が日本語でも伝えられるようになってきた今日この頃。情報はすぐに古くなってはしまうものの、少なくとも2008年時点の現状を的確に現状把握しておくことは重要だ、と最近つねづね思います。
 

・グローバリゼーションと体制移行プロセスとの関係は?
⇒以下の3点の切り口がある。(「序章:問題意識と分析視角」)
1.移行経済諸国が採用する経路に関して。IMFや世銀、G7による市場経済移行圧力。ただし、しばしば国内経済に深刻な亀裂、米国主導の政治経済体制への不満増長をもたらした。
2.移行政策そのものに関して。とくに貿易自由化と私有化政策のインパクトが大きく、西側市場との貿易拡大と膨大なFDI流入をもたらした。
3.外国資本に関わる問題。FDIは、資本の力をもって移行国の経済社会に大きな変容を迫った。雇用にプラスである一方、必ずしも技術移転は十分でなく、また地場産業との融合も進んでいない。


・移行諸国向けFDIの決定/促進要因は?
⇒従来主に議論されてきた市場化政策のみならず、民主化および法の支配の確立を含んだ移行国政府による一連の体制移行諸政策の努力継続が必要。その他、天然資源の輸出可能性は誘致の際のアドバンテージになりうる。また、中東欧地域においてはEU統合プロセス自体がアナウンス効果を持つ。(「第4章:移行諸国への外国直接投資と国家の役割」)


・金融部門へのFDIが経済成長にもたらす効果は?
⇒経営の効率化、リスク管理の能力向上、ブランド力/信用力の活用による資金仲介活動の活性化などにより、総じて言えばプラスの効果。ただし投資側の「支配」構造も顕著であり、大半が西側金融機関がEU新規加盟国の大規模な旧国有銀行を買収するかたちで市場参入したもの。ひとたび経済政策が失敗すれば、FDIの資金引き上げ等のかたちで脅威が直ちに顕在化する恐れがある。(「第5章:移行経済諸国における金融セクターの展開とグローバリゼーション」)


                                  (2008年4月、分眞堂)


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