Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

アラン・ワイズマン 『人類が消えた世界』

 TIME誌とAmazonで2007年ベストノンフィクションに選ばれた、「人類が感染症等によって突然絶滅したと仮定し、人類が消えた世界をシミュレーション」する環境読本。
 作者は、コロンビアの「地球最大規模のエコ実験」と呼ばれるコロンビアの自給自足集落「ガビオタス」に関する著作等で知られるアメリカのジャーナリスト、アラン・ワイズマン。

 感染症や宇宙人の襲来!によって人類が突然いなくなったと仮定して、動植物や人類が残した建造物・遺産にはどのような影響が出るのか、作者が世界各地の自然・文化遺産・建造物を取材した実体験や科学データに基づいて述べていく本です。その発想自体はとても面白いと思います。
 電気供給や公共道路のメンテナンスが欠け落ちたニューヨークのマンハッタンがどうなるか。この100年の間に人間が大量に排出した人造プラスチックや重金属の廃棄物が、今後数千年・数万年にわたって生態系に及ぼし続ける影響はどのようなものか。イスタンブールのモスク等中世より持ちこたえてきた伝統建造物はどうなるか。核廃棄物処理場天然ガス採掘場はどうなるか・・・
 
 もちろん、これら知的好奇心を満たしてくれるばかりでなく、現代の人類が地球と生態系に及ぼしている重大な諸問題-核廃棄物や各種毒性を持った化合物、土壌・海洋汚染、化石燃料の爆発的消費-についても問題提起をしてくれる点が、この本のもうひとつの重要なテーマです。
 たとえば9章「プラスチックは永遠なり」では、海洋に投棄された人造プラスチックが、太平洋のある海域においては滞留してすさまじい体積が滞留していること、また海面下では石→砂のようにプラスチック粒子の細分化が進み、鳥類や魚類のみならず甲殻類やひいてはプランクトン類の消化器官にも影響を及ぼしつつあること、などが明らかにされます。
 また15章「放射能を帯びた遺産」では、言わずもがな、20世紀の人類が生み出した最悪のアウトプット、放射性廃棄物の問題に言及がなされます。全米から放射能漬けのスクラップがドラム缶に詰められて集まるヒューストンの山脈をくり抜いて作られた全米唯一の放射性廃棄物隔離試験施設(WIPP)、今まであまり知りませんでしたが、この施設の管理状況についても警鐘が鳴らされます。たった数十年のちに満杯となるWIPPを、今後数万年にわたってどのように管理していくのか、人類が背負った義務はあまりにも大きいものでしょう。実際、その「数万年」を見越して、想定されるあらゆる言語・図表などの手段を用いた同施設の危険を示す標識が、周囲一帯に設置され始めているそうです。すごい話だ・・・

 最終章で著者が提起する人類破滅の回避策「すべての女性の生涯出産人数をひとりと定め、意図的な人口減少図る」には少々浅はかな印象を抱いてしまいました。が、最終章まで読み進めるまでに、上記のようないろいろな挿話が、自分の知的好奇心を十分に満たしてくれたのも事実。
 さっくり時間をかけずに読めるので、自然環境、文明論、Etc.に興味のある方はいちどチェックされてみてはいかがでしょうか。

             (日本語版:鬼澤 忍 訳、早川書房、2008年5月発行
                原書: Alan Weisman "The World without us" Virgin Books, 2007)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/F/Foomin/20190829/20190829192751.jpg