Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

齊藤 誠 『原発危機の経済学 社会科学者として考えたこと』

 マクロ経済学者の齊藤氏が、福島第一原発の事故をきっかけとして、経済学・経営学の視点から原発事業の妥当性を論じた本。

 同氏の問題意識は、たとえ新規原発の建設を止めたとしても、既存原発の維持管理、運転終了後の解体、放射性廃棄物の処理・貯蔵などで多くの資金・人員・期間を必要とすることは明らかであり、その資金源を考慮するためにも各種原発事業の収益性を検討する価値はある、というものである。
 その結論は、「再処理・高速増殖炉事業から完全に撤退すれば、廃炉などのバックエンド費用を考慮しても、軽水炉発電事業が収益プロジェクトとしてどうにかこうにか成り立つ」というもの。ただし、最先端技術の活用、当初耐用年数の遵守(福島第一原発の原子炉は耐用年数が延長されたうえで使用され続けていた旧世代の原子炉だった)、地震リスクの精査など、幾つかの条件は付く。加えて、放射性廃棄物地層処分について、本来は数万年スケールでの管理が必要な物質を地下に埋めることは管理責任の放棄であり、安全確実な技術が開発されるまで地上に留め置くべき、そのため関係者間のコンセンサス形成が必要である、とも述べている。

 全体としての結論は非常にオーソドックスなものだが、「管理できないからこそ地上に留め置くべき」という地層処分についての齊藤氏の主張は、自分にとって新鮮だった。欧米では地下処分場の建設が進んでいるが、米ヒューストンの最終地下処分場の敷地では、数万年後の人類が遭遇したときのことを想定し、あらゆる言語で「危険」と示す標識が作成されているらしいが(http://blogs.yahoo.co.jp/s061139/11307732.html
)、誰が考えてもこれは危うい。自分はこの情報を知ったときから、(安定した地層を持つ北欧や米国ならまだしも)少なくとも日本での新規原発建設は一切止めるべき、というスタンスだが、安全な管理技術が確立するまで地上に留め置く覚悟が国と当該自治体にあるのなら、軽水炉発電事業の継続についても検討の余地が、理論上は残るのかもしれない。とはいえ、このご時世下で好き好んで手を挙げる自治体が新たに居るとは思えず、短期的なコスト増や気候変動への影響を呑んででも、長い時間をかけて再生可能エネルギーの比率を上げ、いずれにしても長期的には原発からフェードアウトして行かざるを得ないだろう。

(2011年、日本評論社

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