Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

山口 昌子 『原発大国フランスからの警告』

 元産經新聞のパリ支局長である山口氏が、福島第一原発後のフランスメディアの反応や、フランスの原子力事業と当局による安全面の取り組みについて紹介する新書。
 フランス原子力安全院のトップによる「原発事故は決して排除できない。これがわれわれのあらゆる行動の基本である」の言に象徴されるように、フランス原子力行政の基本スタンスは、あくまでも現実主義にある。これは、日本の当局・事業者が唱え続けてきた「安全神話」より、よほど健全なように思える。例えばフランス当局は、チェルノブイリの教訓をふまえ、甲状腺への内部被爆を低減するヨウ素の配布を、原発周辺の住民に対して実施した。このことを聞いた日本の原子力関係者は、日本でそんなことを実施したら、住民は原発建設を容認しない、これまでも「事故ゼロ」と説明して納得してもらってきたのだから、と述べたという。これでは本末転倒である。地元への莫大なバラマキを餌に、肝心の原発事業の詳細についての説明を欠く形で国策として進められたのが日本の原発事業だったが(http://blogs.yahoo.co.jp/s061139/34853303.html
)、本来は想定されるリスクや対応策について説明を尽くした上で、それでも住民の合意が得られないのであれば、本来は原発じたい建設すべきでなかった。また、事故を「人災」であると結論づけた福島第一原発の国会や政府の事故調報告書に見られるように、自らの無謬性を信じ、足元の取り組みを欠いたまま原子炉耐用年数や各種の安全基準を安易に緩和してきたのが、これまでの日本の原発運営だった。
 山口氏が「あとがき」で述べている、フランスの原子力事業は、①大規模地震津波が発生しない自然地理、②「エネルギーの独立」を大原則とした国家戦略、の2つを前提としているという点は、日本の関係者が肝に銘じなければならない点だと思う。たしかに戦後すぐの日本には、莫大な電力需要を安定的に支えなければならない、という国家的要請があった。しかし再生可能エネルギー天然ガスなど多様な選択肢が存在する現在、災害大国である日本においてどこまで原子力事業を拡大ないしは継続するのか、是原発反原発論者どうしの感情的な対立を超えて、より大きな視点・より広い時間軸で冷静に再検討し直す必要があろう。

(2012年、ワニブックスPLUS新書)

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