Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

吉村 昭 『高熱隧道』

 最近、吉村文学に文字通りはまっています。明治~昭和期の想像を絶する男達の生き様に、時間を忘れて一気に読み進んでしまいます。

 この本は、昭和11年~15年の黒部第三発電所建設のための難工事を題材にしたフィクションです。当時の富山で一般人の立ち入りが不可能といわれた立山連峰の大渓谷にトンネルを掘りぬき、上流のダム建設現場までの通路を開くともに、同様に水路トンネルを貫通させ、ダム湖から下流発電所までの水路としました。完工までの犠牲者はなんと300人以上。

 トンネルを貫通させる岩盤の温度は、事前に帝国大学の地質学者が予測した数値を大幅に超え、最高温度なんど165度。近くを火山帯が通っているためだが、人夫たちは高い日当のゆえに、岩盤・水滴の高温をものともせず、ダイナマイトの発破・瓦礫の運び出しを延々と続ける。削岩場所の気温は想像を絶するもので、ホースや人力を使って渓谷の水を直接岩盤や人夫に放射して冷却するとともに、ダイナマイトの自然発火を抑える為に断熱材をダイナマイトに巻きつけるなど、さまざまな工夫がなされました。
 それでも、ときにはダイナマイトの自然発火による爆発事故で、坑道内で人夫たちは凄惨な最期を遂げていきます。また立山連峰の自然の脅威-泡雪崩による宿舎の倒壊・火災-等、坑道の外でも、人夫達の労苦のすさまじいものでした。
 発注者である富山県、戦時体制下の中央政府、請負業者の建設会社技師、工事責任者、そして名もなき人夫たち。さまざまな人々の思惑が、黒部の山中で交差していきます。

 ちなみにプロジェクトXで紹介された黒部を題材にした戦後のダム・発電所建設工事は、「黒部第四ダム」で、同じ水系に属しながらも、この本の題材である「黒部第三ダム」とはと違うダムです。
 昭和初期の「現場」がどんなに厳しいものだったのか。興味引かれた方はぜひご一読を!

                                 (1975年、新潮文庫

 
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