Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

金子 勝、高端 正幸 編著 『地域切り捨て 生きていけない現実』

 新自由主義への批判で知られる経済学者・金子先生と高端先生、そして地域の問題を取材し続けてきた気鋭のジャーナリストたちによるルポルタージュ8編。なんとも刺激的なタイトル。
 地域格差、所得格差の問題が言われて久しいが、実際に地方の現場で何が起きているか、自治体財政、平成大合併、介護保険、健康保険・地域医療、原発補助金といった問題を、丁寧な取材と事実・データに基づいてクリアに浮き上がらせています。
 
 ひときわ目を引かれたのは、先日の北海道旅行中に訪れた夕張市財政破綻について触れた第1章「夕張破綻 もう一つのストーリー」。北海道炭鉱汽船株式会社(北炭)などの関連企業である「民」から夕張市「官」に不良債権が押し付けられていった奇妙な構図を明らかにします。
 また他の章でも、国鉄民営化・旧国鉄清算事業団の負の側面として、都心の優良な旧国鉄所有地が破格の値段で大手ゼネコンに払い下げられる一方、北海道などにある不良国鉄所有地については各地方自治体に押し付けられていった事実、市町村単位で運営される国民健康保険の破綻、小規模零細農家の切り捨て等について、わかりやすい筆致でつづられています。
 
 1980年後半の中曽根行革に始まる「市場原理主義」のイデオロギーは、「行革」「民営化」「民活」といったキーワードとともに、中央財政の負債を徐々に地方自治体に押し付けていきました。地方財政危機は現在無視できない程に深刻化しており、
 ・更なる地方への権限委譲および自主財源の保障
 ・憲法25条に基づく国による最低限の社会保障サービスの提供
 ・個別所得保障案など中間山地と農地を守るための農政の転換
といった政策転換が必要、というのが本書の趣旨。

 確かに、中央の財政危機とグローバル化による各種産業での競争激化によって、今の日本が相当「せちがらい」状況にあるのは確かだと思います。ただし近視眼的な「地方切り捨て」政策は、長期的に見れば国民の生存に絶対に必要なコスト、たとえば
 ・山林などの国土保全
 ・食糧自給率の向上
をないがしろにするものではないだろうか。思わずそう考えさせられてしまいました。

 おそらくページ数の都合によって詳細を描ききれていない部分もありますが、丁寧な取材によって裏打ちされた事実とデータの数々が、とかく東京や名古屋といった大都市だけを注視しがちな日本人の目を覚まさせてくれます。万人におススメの本です。

                              (2008年4月発行、岩波書店

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