Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

日本経済新聞社 編 『されど成長』

 日本経済新聞の2006年から続いた長期連載「成長を考える」の単行本化。単行本化にあたって、タイトルが『されど成長』となっていることからも分かるように、昨今の格差問題・市場重視の風潮に「疲れた」日本人に経済成長の重要性について改めて認識することを主張する趣旨。政府の監督・保護を離れ、サービス業や農業、製造業、地方の現場でイノベーションに取り組み、リスクをとって「成長」を続ける企業や個人の奮闘を、オムニバス形式で各所に散りばめている。
 
「どんなに苦しくても、パイを拡げる経済成長をあきらめてしまっては、次の世代に今以上の負の遺産を引き継ぐことで終わりかねない。逆に負け組と言われる人にも自由に挑戦する機会が担保されている環境を作り上げ、それが結果として経済成長をもたらすような世の中を目指すべきではないのだろうか。」
 本書が冒頭で提示する以上の仮説には概ね賛同せざるを得ない。かつてない少子高齢化に突き進み、かつ海外の振興市場の台頭、圧倒的な産業発展といったグローバリゼーションの外圧にさらされる現代の日本においては、パイの拡大と格差解消の「二兎を追う」社会政策・制度の実現が不可避。
 
 興味深い記述が、本書後半に2つ。
 「多くの弱者は、自分の人生を自由に切り開くチャンスがほしいのであって、他人に隷従して救われることを願っているのではない。チャンスが与えられないのは、市場競争が激しいからではなく、まったく逆に、既得権に胡坐をかいた人々が、市場競争をゆがめ、競争を阻害しているからと考えるのが理にかなっている」
 たとえば、若年層の労働市場。正社員というポストは現在なかば既得権益化しており、同じ質で同じ時間働く非正社員との賃金差は拡大しているという。大雑把に言って、日本の航空業界や通信業界における数社寡占の状況も、概ねこの図式に当てはまると思います。

 「英国の宰相チャーチルは「民主主義は最悪だ。これまで試されてきたすべての政治制度を除いて」と言った。・・市場システムも、結局のところ民主主義と同じセカンドベストではないだろうか。・・・政治不信を反民主主義に転化しても不毛なように、安易な反市場心理も多くを生みはしない。セカンドベストとしての市場を磨き、鍛え、成長の土台にする。それは日本にとって終わりなき、そして、終わらせてはならない課題なのである。」  
 グローバリゼーションの進展と、それに伴う市場システムへの日本社会の姿勢。それは避けられないものであり、その点を前提とした上で、いかに市場と接するか。日本の針路は未だ見えません。

 他方で、本書の執筆陣が経済紙の記者だからかもしれませんが、「されど成長」の前提で筆を進めるがゆえに、成長の負の側面である格差問題や、地方分権改革等、一国全体の経済成長とあわせて考慮せねばならない論点については、多少記述が不足している印象を受けました。
 経済成長、広がる格差、政府と市場の距離、国営事業民営化の是非、といった問題を考えるときに、この本が紹介している具体例の数々が、一定の示唆を与えてくれるものであることに間違いはありません。が、あわせて他の視点の本も同時に読み進められることをおすすめします。

                            (2008年1月、日本経済新聞社