Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

真山 仁 『マグマ 小説国際エネルギー戦争』

 真山氏の小説を最近ずっと読んでいる。本作、「国際エネルギー戦争」は少々大げさだと思うが、原子力や水力の陰に隠れて陽のあたることが少ない地熱発電のメカニズムや電源としての可能性に正面から切り込んでおり、なかなか読み応えがあった。

 とある地熱発電企業に投資ファンドから派遣された新社長・野上は、地熱発電の可能性と、そこで働く技術者の思いに突き動かされ、企業再生に向けて走り始める。個別売電先を開拓する中で、自動車最大手のトヨハシ自動車の社長・榛名から思わぬ快諾を受ける:「”地球のために、電気の源にこだわりませんか?だから、私たちは、地熱発電を選びました(野上の会社のパンフレット)。”良い言葉じゃないですか。我々が議論の末に御社のプロジェクトに参加しようと思った理由もこれと同じです。」

 戦後の日本人は、一度稼動させると止められない、原発という魅力的な「パンドラの箱」を開けてしまった。いっぽう、太陽光や風力、地熱といったクリーンエネルギーにはあまり手をつけてこなかった(国内発電量におけるこれらの電源の割合は微々たるものである)。しかし、物語の終末で川邊が言うように、「いずれにしても選択肢を持つことが大切」なのは確か。近い将来、スマートグリッドがより「スマート」になって、CO2も放射性廃棄物も良しとしない家庭では地熱か風力か太陽光でできた電気しか買わない、みたいな操作が出来るようになると、とても面白いと思うのだが。

(2006年、朝日新聞社


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