Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

真山 仁 『レッドゾーン』

 『ハゲタカ』『ハゲタカII』に続く第3弾。主人公・鷲津のかつての右腕・アランの死の謎が、ようやく明らかになる。
 
 今回、鷲津のバイアウトの対象になるのは、自動車業界の雄・アカマ自動車。日本産業界の象徴であるこの大企業に対し、中・米の投資ファンドが買収を仕掛けていく。ホワイトナイトとして名乗りを挙げる鷲津の行動原理は、前作・前々作のように義憤にかられて、というよりは、底知れない中国の思惑のなかで「なるようになれ」という諦観と、「買いたいものを買う」という原点回帰。それでも、会社と創業者一族の名誉を守ることに最後まで心を砕こうとするアカマの社長・古屋に投げかける言葉は重たい:「アカマが守るべきものはなんです。創業者ですか。創業者が従業員とともに、血のにじむ思いをして築き上げた魂じゃないんですか。」中国のソブリンファンドに加え、かつてのボス・米ファンドのクラリスからも宣戦布告を受け窮地に追い込まれるが、米日中による国際自動車産業支援ファンド、国際自動車産業研究所の設立という起死回生の策をもって立ち向かう。

 真山氏はもともと中国通だったというわけではなく、2005年ごろから取材を重ねて、『ベイジン』をはじめ現代中国を描く作品を発表するに至ったようである。たった数回の取材だけで本質に切り込む着眼点の鋭さは、自分には到底真似できない。拝金主義、不正と腐敗、怒涛の発展、拡大する格差。『ベイジン』や『レッドゾーン』に登場する中国人たちは、現代中国の現実と矛盾をみごとに象徴している。

(2009年、講談社、上・下巻)


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